ソーシャル、スマートフォン、クラウド――端末やインフラの環境が整い、アイデアひとつで小さく、何度も何度もチャレンジすることのできる“金のかからない”ウェブサービスやアプリが増えてきた。その流れと同じくして、小額出資などをおこなう支援機関の活動が活発だ。
特にここ数年の起業に関する話題を語るとき、キーワードとなるのが「シードアクセラレーター」などと呼ばれるインキュベーターの存在だろう。定型の投資フォーマット、期間限定の育成プログラム、卒業後の起業家ネットワーク。Y Combinatorが大きく影響した「型」は日本にも飛び火し、「日本版Y Combinator」と呼ばれるOpen Network Lab(Onlab)を産み出したのは2010年4月のことだ。
起業の「エコシステム」構築を歓迎する一方で、彼らがどのような考えで支援をし、どのような違いがあるのか、書き並べてある文字からすべてを理解することは難しい。そこで本特集では、ごく初期の起業家を支援するインキュベーター、ベンチャーキャピタルのキーマンに話を聞き、それぞれの考えをお伝えしたい。第1回目となる今回は、国内で始めてY Combinatorスタイルを取り入れたOpen Network Lab(Onlab)取締役の前田紘典氏に話を伺った。
デジタルガレージ(共同創業者で取締役)の伊藤穰一さんとネットプライスドットコム(代表取締役社長兼CEO)の佐藤輝英さんの間で「起業家文化を促進しよう」という話題が盛り上がっていました。ちょうど2009年とかそのあたりでY Combinatorからビリオンダラーカンパニーが出てきた頃。当時ネットプライスドットコムのインキュベーションと投資を担当していた私に「何か提案してほしい」とオーダーがあって、「以前から気になっていたY Combinatorをやりたい」と話したのがきっかけです。
当時は支援している側の方が学べると思っていました。どういう課題にぶつかるのかパターンが見えてくる。それで投資を始めたんです。学べたことは莫大にありました。今になって考えると、インキュベーターとしての自分の役割は、それぞれのスタートアップが何にフォーカスすればいいかを明確にすることだと思っています。
ネットワークや経験を取り入れよう、と(Twitter共同創業者の)Biz Stone氏や(Evernote創業者の)Phil Libin氏など、世界中から起業家を集めて話を聞きました。彼らとの会話から分かったのは、メンターの中でも成功している人は「集中している」ということ。分析し、自分達のユーザーの動向を理解しています。
成長率の高い会社は創業者が相当高い分析能力を持っている。ユーザーの動向データを集めてひたすら分析している。昨日のコンバージョンがどうだとか、バイラルがどう広がるとか。そういう企業ほど成長率が高いしサービスの展開が早いのです。逆にセレクションで落としている人は基本的にお金儲けをゴールにしている人でしょうか。体験とかユーザーを無視してとりあえずどっかに売れればいいや、という感じだとうまくいかない。サービスの前に人を見ています。人がすべて。一次審査は書類選考です。それを通ったら実際に会って10チームほどに絞る。そこから4~5チームに絞るのが(前述の)佐藤さんや伊藤さん、林さん(デジタルガレージ代表取締役グループCEOの林郁氏)、安田さん(Open Network Lab代表取締役の安田幹広氏)。Onlabに入ったらプログラムを受けてもらいます。
まずUX(ユーザーエクスペリエンス)。ウェブやデザインのコンサルティングを行うAQと提携して、各チーム2時間ずつ見てもらっています。次にデータ。自分達のサービスの中で取るべきデータとはなんなのかを学んでもらいます。そのデータをもとに次の改善を行う。最後が開発です。アジャイル開発は元PivotalのCTOであるIan McFarlandが教えています。
最低1年間オフィスを使えるのも支援の1つです。ペイフォワードの取材でも答えたんですが、卒業生が交流することに価値があるんですよね。たとえば、ユーザーヒアリングの仕方を後輩に教えていたり。あと自分達も「リーン・インキュベーター」としてプログラムをどんどん成長させていく。そうやってOnlabから卒業したスタートアップはアジャイル開発もUXも一通りできるスキルあるチームになるというわけです。
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