議論を呼ぶ無線LAN SDカード標準化--Eye-Fiが異議を唱える理由 - (page 2)

 SDメモリカードの規格策定を行なう「SDA」と、同団体のメンバーであるEye-Fi。なぜ、このような問題が起きてしまったのだろうか。Eye-Fiの創立者であるユーバル・コーレン氏とアイファイジャパン代表取締役の田中大祐氏に話を聞いた。

  • Eye-Fiのユーバル・コーレン氏

--御社のホームページでは、無線機能内蔵のSD標準規格に対する主張が掲載されています。加盟しているSDAに対してとなりますが、どのような経緯があったのでしょうか。

コーレン:まず、SDAは標準規格を策定するにあたり、検討期間を前倒しせずにしっかりとルールを守るべきだったと思います。今回のアナウンスは“間違って行われた”ものではなく、CESの開催期間中にアナウンスすることによって、もっとも露出の機会が得られる、そういうタイミングをみて行われたと考えています。

--今回の規格発表に対して、異議を申し立てていると思いますが、どのような結果になると考えていますか。

コーレン:SDAに対して、2つ期待していることがあります。1つはSDAが今回“発表してしまった”仕様というのがまだ策定中の段階であり、レビュー期間中であることを認める。そしてもう1つが、われわれが提示している知的財産権・特許権がこの仕様策定に必須の知財かどうか判断していただき、もしそうであるならば、お互い良い形で決着をつけたい。

  • SanDisk Eye-Fi Wireless Memory Card

--申立てをしてから時間があったと思いますが、現状(1月24日現在)では、SDAからなんらかの回答があったのでしょうか。

コーレン:今まさに回答待ちの状態です。実は、SDAがこのようなアナウンス(CESでの発表と前日のリリース)を行ったということ自体が驚きでした。まず、アナウンスを行うということも知らされていませんでしたし、内容・詳細も知りませんでした。われわれが危惧しているのは、当社製品のユーザー様だけでなく、パートナー様が混乱するのではないかということです。そもそも、われわれが持っている知的財産を絶対に提供しないといっているわけではありません。実際にメジャーな10社のカメラメーカー様にわれわれのカードの仕様を提供し、この分野でのデファクトスタンダードになっているという実績もありますし、サンディスクにカードを提供し、実際にEMEA(ヨーロッパ、中東及びアフリカ)で展開してもらっています。そういった意味では、健全な市場を作ることに貢献していると思っています。

--もう一度確認させてください。今回の発表に関して、SDAのメンバーであるのにも関わらず、事前に情報の開示はなかったのでしょうか。

コーレン:われわれが確認したところでは、当社だけではなく、他のメンバー企業の一部もアナウンスを事前に知らなかったようです。

--御社とEye-Fi製品で提携しているサンディスクはSDAの主要メンバーだと思いますが、主要メンバーと提携している会社であるにも関わらず、情報はなかったと。

コーレン:その通りです。しかし、まず申し上げたいのは、Eye-Fiは今後ともSDAのメンバーであり続けたいということです。そして、このような状況ではありますが、ユーザー様に安心して製品を利用して頂けるように努力し続けます。SDAの発表に関しては、少し違った方向を向いてしまった策定プロセスというものを、本来あるべき姿に戻していただき、われわれはそれに貢献したいと、そう思っています。

--御社はすでに製品を販売しています。そうした状況の中で、Eye-Fi対応カメラが発売されるなど、メーカーとのつながりが深いように思いますが、今回の発表について、何か情報をつかむことはなかったのでしょうか。

コーレン:われわれはカメラメーカー様と良い関係を築いていると思っていますが、とはいえ、実際にどのような製品が出るという情報は把握しておりません。今回SDAが発表した仕様のレビューを2011年11月末から行っていますが、仕様を読む限りでは、カメラ側が積極的にカードをコントロールするという部分もありながらも、Eye-Fiと同じように、カメラから電源さえ供給されれば独自に動くという仕様も読み取れます。そういう意味ではEye-Fiに近いのではないかと思います。ですから、ホームページに書かせていただいた通り、標準化に必要だと思われるわれわれの知的財産・特許権をSDAが指定しているフォーマットに則ってリスト化し、提出しているわけです。

--実際にはどのような特許について問題にしているのでしょうか。

コーレン:取得済みのものに関しては、米国のホームページで確認することができますし、Eye-Fiの名前で検索しても確認できます。

Eye-Fiホームページで確認すると、「Copyright (c) 2011 Eye-Fi, Inc. Patent Nos. 7,702,821; 8,014,529」とある。米国特許サイトを参照したところ、「7,702,821」(登録日は2010年4月20日)は“Content-aware digital media storage device and methods of using the same”、「8,014,529」(登録日は2011年9月6日)は“In-band device enrollment without access point support”とある。また、Eye-Fiの名前で検索したところ“Content-aware digital media storage device and methods of using the same”というのが2010年3月29日に出願、2011年10月25日に登録されていた。

--もし、このまま押し切られる形で規格が出来上がってしまった場合、御社はどのような行動をとるのでしょうか。また、発表された規格とEye-Fiを比較して、どのような感想を持ちましたか。

コーレン:その時の状態によってさまざまな方法はあると思いますが、ただ、一番始めに考えなくてはならないのは、今、製品をご利用いただいているユーザー様にとってベストな形で良い製品を作り続けられる環境を守っていくこと。そこが確保された状態で、法的な話もあると思いますし、それ以外のところで何かしら最適な着地点を探すこともあると思います。アナウンスの内容とのことですが、われわれは基本的にEye-Fiの仕様に非常に満足しています。われわれだけでなく、カメラメーカー様も同様だと思います。長い年月をかけて、技術の改善を行ってきましたし、その技術に対してカメラメーカー様に採用いただいたという実績もあります。そういった意味では、実は今回の規格策定に関していえば、一切、策定に関わってほしいという話は受けていませんし、われわれの意見・経験というものはまったく入っていません。そういうことだと思います。

--話を伺っていると、かなり限定されたメンバーで策定された規格のように感じるのですが。

コーレン:実際に内部で行われた、オープンではない会議の内容を知ることはできません。メンバー内でも、SDAの活動に積極的、受動的など“差”はあります。しかし、そのような差があったとしても、標準化のプロセスは公平であるべきだと考えております。

--発表された規格に準拠した製品がまもなく発売されるようですが、既存のユーザーは複雑なのではないでしょうか。つまり、“新しい規格”と“今までの規格”という視点でEye-Fi製品が扱われないかという懸念です。

コーレン:私は規格の標準化というところと、ユーザーの不安を取り除くというのは必ずしもリンクしていないと思っています。例えばスマートフォンであれば、どこどこの規格を採用しているから利用するというのではなく、ユーザーインターフェースが優れているから、ユーザーエクスペリエンスが素晴らしいから利用するのであって、規格に準拠しているからスマートフォンを選ぶということはないと思います。標準化はもちろん大切なことですが、それがユーザーエクスペリエンスに影響するとは考えていません。さらに言うなら、携帯電話の通信の規格は標準化されていますが、環境によってキャリアごとに通信品質は異なるという現状があります。つまり、規格とユーザーエクスペリエンスとは違うという1つの例だと思います。

--最後に、今後の予定とユーザーへ一言をお願いします。

コーレン:まず、2011年はEye-Fiにとってとても素晴らしい年でした。2012年はさらにエキサイティングなことを日本を中心に計画しています。すでにKDDI様からもアナウンス(写真自動バックアップサービス「au one Photo Air powered by Eye-Fi」)がありましたが、カメラだけでなく、スマートフォンユーザー様にもサービスを提供しています。そういう意味で、Eye-Fiはサービス・ソリューションを提供する会社ですから、これからも素晴らしいサービスを届けていきたいと思います。私の来日はこれで最後というわけではありません。また、素晴らしいサービスと一緒に皆さんにお目にかかれることを楽しみにしています。

田中:2011年の春頃に“ダイレクトモード”を追加しました。このモードはユーザー様に前向きにとらえていただけたようで、今年はもっと機能を強化し、簡単に繋げられるようにしたいと思います。楽しみにしていてください。

--ありがとうございました。

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