2011年は日本を含め世界的にスマートフォンが普及した1年だったといえる。そうなると各事業者の次の課題となってくるのがスマートフォン分野でのマネタイズだろう。そこで、NTTドコモの広告媒体をはじめ、幅広くモバイル広告事業を展開するディーツー コミュニケーションズ(D2C)代表取締役社長の宝珠山卓志氏に、現在のスマートフォン広告の問題点や海外の動向を聞いた。
私がよく対外的に言っているのが「何をもってスマホなのか?」ということです。以前はスマートフォンといえばBlackberryだったのが、iPhoneが発売されたことで、「何となくタッチスクリーンで、アプリを使っていて、PCウェブサイトを見られるのがスマートフォン」と言う人もいれば、「Android OSかiOSが載っているのがスマートフォン」と言う人もいます。だけどその定義もあいまいで、Android OSは載っているけどキーパッドがある、いわゆる“ガラスマ”が今よりもたくさん出てきた時に、スマートフォンの定義はなくなるだろうと考えています。
そのためD2Cでは、スマートフォン専用の部門を作るというより、全部署がスマートフォンと呼ばれている端末にシームレスに対応していくのだろうなと思っています。現在は広告ビジネスというよりも、コンテンツプロバイダ(CP)のような課金ビジネスや、これまでフィーチャーフォンではビジネス展開をされてこなかった企業のスマートフォンでのビジネス展開のサポートなどを先行して行っています。
フィーチャーフォンでは、1999年にドコモの「iモード」が登場したことで、他キャリアのネットアクセスも増えました。それにともないEコマースの売上も段々と伸びてきてマーケット規模も大きくなり、それに引きずられるようにモバイル広告も成長していきました。そういった状況を見て、車や化粧品など直接モバイルに関係のない企業も広告を投下するようになり、市場全体が盛り上がるという構図ができていました。
当時からPVを重視したアドネットワークの仕組みもありましたが、アドネットワークではクライアントを啓蒙することにはならないし、広告主の開拓もしてくれません。ですので、D2Cでは広告主に利用方法を説明したり、マーケティングプランを提案することでクライアントの啓蒙を続けてきました。こういった取り組みもあり、フィーチャーフォンでは、媒体の売り手がいて、広告枠が売れる、広告枠が売れたのでページを増やす、といった成長のパターンがありました。
しかし、iPhoneやAndroidなどスマートフォンが登場したことで、これまで積み上げてきた仕組みが完全に分断されてしまった。10年前のフィーチャーフォンの時とまた同じことをやらなければいけないのかなというのが私の認識です。例えば、スマートフォン向けアプリが100万DLを達成したといっても、それで上場した企業があるかといえばほとんど聞きません。PVが積み上がっているのに買い手がいないからそういった状態になっているのです。スマートフォンページのPVはフィーチャーフォンの時よりも増えていますが、PVが増えることが市場を作るのではなくて、広告を買ってくれる人がいるから初めてマーケットとして成立するのです。
私はフィーチャーフォンのモバイル広告で成功しているのは日本だけだと思っています。それは日本が媒体の積み上げではなく、広告主への啓蒙活動に最も労力を使ってきたからです。確かにアドネットワークで大きな売上を上げている企業もありますが、アドネットワークは売る人や提案する人への価値をあまり見いだしていない。そこが大きな間違いだと思っています。使い方を提案して啓蒙していく、これがいまのスマートフォンの広告市場に最も欠けてることだと思います。
「dメニュー」(ドコモのスマートフォン向けポータルサイト)についても、スマートフォンになったらもう必要ないという人もいますが、ドコモユーザー全員がイノベータ層であるわけではありません。ですので、これまでやってきたことを自然に引き継いでいくことは必要で、いままでiモードで使ってたコンテンツがそのままdメニューに引き継がれることも当然だと思っています。
例えば、新聞広告ではモノクロとカラーで料金が違います。それはインク代が媒体費に上乗せされるからです。そうやって物理的にかかる費用については広告主も支払ってくれますが、スマートフォン広告で表現がリッチになったからといって、その分の費用を支払ってくれるかというと難しい。
また作った広告が何人に届くのか、何人がイメージを感じてくれるのかということで考えると、単純に表現力が上がったから市場も盛り上がるというのは発想としては安易なのではないかと思っています。各社がリッチな表現を求めているのも事実ですが、それがいきなりビジネスの規模に直接影響があるかというと少し疑問です。
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