周波数オークションを考える(2)通信キャリア編--パブコメ等に見る各社のスタンス

 総務省による「周波数オークションに関する懇談会」において、一定の方向性が示されたオークション制度。当面の売却対象として指名されたのは携帯電話事業を運営する通信事業者である。彼らは制度をどう受け止めているのか。懇談会報告書案に寄せられたパブリックコメント、そして現行4事業者中唯一、直接取材に対応してくれたイー・アクセス担当者の話から通信事業者のオークション制度への考え方を探る。

 懇談会報告書に寄せられたパブリックコメントは法人26件・個人9件の計35件。通信キャリア4事業者はもちろん、放送事業者やケーブルテレビ事業者など周波数にかかわる企業やその周辺で事業展開する企業まで幅広く意見を寄せている。

 「放送は対象外と明記すべき」(静岡朝日放送ほか多数放送事業者)、「(有効利用も透明性・迅速性確保も)これまでのやりかたで必要十分に実現できている」(TBSテレビ)といった放送局ならではの意見、逆に「放送帯域と通信帯域は平等にオークション対象とするべき」(ソフトバンクモバイル、イー・アクセスほか多数)と真っ向対立する意見が寄せられている(ちなみにこの論争は報告書案上、後者の意見を採用)が、ここでは本旨に沿って各キャリアのオークションに対する考え方を紹介する。

 まずは業界最大手のNTTドコモ。直前、ある記者発表会において「オークション制度に反対」とするトップ声明が紹介されたこともあったが、「あくまで性急な導入に懸念を示す発言があっただけであり、会社として反対しているわけではない」(広報部)ということなので、あくまでパブリックコメントに寄せた意見を企業の立場として採用する。

 ところが、同社のオークション制度自体に対する考え方がうかがえる意見はほとんど見当たらない。例えば電波利用料制度との関係について「オークション払込金の使途と重複する部分は、電波利用料の低減も含めて検討すべき」(イー・アクセスも同旨)などと導入後の綱引きともとれる意見を寄せていることから、導入の方向性自体はあるものとして受け入れつつ、いかにして有利な局面を築いていくかに考えを巡らせている印象を受ける。

 次にKDDI。こちらは明確に「広く国民の利便性を高めることになると考えます」と歓迎意見を寄せている。その他の部分についても基本的に制度を否定する意見は見られないが、一度オークションで取得した周波数の再免許時にオークションを実施することについては、NTTドコモなどと並んで「行うべきではない」との考えを示している。

 なお、これに対し懇談会事務局(総務省)は「オークション実施前に(再オークションの)可能性を示し(中略)事前に十分な情報提供を行う必要がある」と引かない姿勢。有効期限経過後の再オークション実施は、場合によってユーザーへのサービス提供が途切れる危険性も考えられるだけに、今後もキャリアの反発が予想される部分だろう。

 「放送もオークション対象とせよ」という意見が一際目立つソフトバンクモバイルは、報告書案に直接関係ない電波利用料についても「ITSからは経済的価値に見合った額を徴収せよ」と指摘するなど、しきりに電波利用事業者の取り扱い公平化を求める意見を寄せている。直接的な反対意見は見当たらないことから、とりあえず「皆を公平に扱うのであれば制度導入に納得する」といったところなのだろうか。

 最後にイー・アクセス。パブリックコメントにもさまざまな部分について意見を寄せているが、冒頭で示したとおり執行役員で企画部部長の大橋功氏が直接取材に応じてくれているのでそちらを紹介する。なお聞き取りは懇談会最終回以前に行っているが、パブリックコメント自体は提出後であったため内容に相違はない。

 まず、行政刷新会議「提言型政策仕分け」において第3.9世代も含めた早期導入が提言された件については「早期導入は反対。今の段階においては制度設計があまりに中途半端であり、そもそも目的が電波の有効利用や透明性・迅速性確保ではなく財源確保に変わっている。そうした観点で話を進めること自体に強く反対する」(大橋氏)。

 そして「第4世代、つまり今のプレイヤーが横一線に並べる段階から導入するのであれば賛成」(大橋氏)と、懇談会で示された方向性自体には賛成するスタンスをとる。懇談会についても「これまでずっとくずぶってきたオークションの議論を公の場で行ったこと自体、一定の評価はできる」と話す。

 大橋氏が懸念するのは、これからの制度設計。特に、現状の寡占状態および新規参入事業者にとって厳しい環境を是正する公正競争確保の理念がいかに取り入れられていくか、という点についてだ。「現状は新規参入事業者をサポートする制度がなく、公正な競争環境にあるとはいえない。オークション制度にあわせてイー・アクセスを救済してほしいという話ではなく、手を挙げた誰もが参入できる市場にならなければ新規参入枠などの制度も実質形骸化してしまう恐れがある」(大橋氏)。

 ソフトバンクモバイル同様、放送もオークション対象とすべきという意見については「なぜ携帯電話だけなのか、という部分をオープンにしていかなければ、透明性の確保という主目的にあわない」との考えから、あくまで主目的に沿った制度設計を心掛けてほしいということだ。

 制度導入の有利・不利については「どちらにも転がりうる」と、これから始まるであろう業界内の利害調整を警戒する姿勢。イー・アクセスが求める公正競争確保の理念はどこまで取り入れられるのか。事業者にとっての本番が、今まさに始まろうとしている。

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