IPOマーケットは長い冬の時代にいる。上場ベンチャー企業の不祥事、株式市場の低迷、企業業績の悪化など、要因は複合的だ。IPO銘柄数は2009年、2010年と歴史的な低水準となってしまった。2011年は復活の年になるはずだったが、3月11日に発生した東日本大震災によって日本経済が大打撃を受け、株式市場も大暴落。ベンチャー企業の上場意欲も一気に後退した。2011年、ここまで上場してきたネット、IT系のベンチャー企業は駅探、ディジタルメディアプロフェッショナル、モルフォなど。厳しい環境をくぐりぬけて上場してきたこれら企業は株式市場でそれぞれ、高い評価を得た。
3月3日に東証マザーズに新規上場した駅探は2011年の第1号IPO案件でもあった。モバイル端末向けを中心に乗換案内サービスを手掛ける。東芝の社内ベンチャーとして発足し、MBO(経営陣による企業買収)で独立した経緯を持つ。
上場企業でモバイル向け乗換案内サービスといえばジャスダック上場のジョルダン。「乗換案内」でトップシェアを握る。IPOマーケットでは株価が比較しやすくなる競合上場企業が存在する案件の初値は大きく上昇しづらく、大株主がファンドで想定外の株式が市場に流通する可能性があるMBO案件も嫌われる傾向がある。駅探はIPO銘柄としての魅力に疑問符を付けられながら上場したが、初値は公開価格比約2倍の5530円に暴騰。年末年始はIPO案件がなく、買いエネルギーが充填された状況で登場する年第1号案件は人気化しやすい傾向があるほか、株式市場は久々に登場したモバイル関連のベンチャー企業を好意的に受け入れた。
6月23日に上場したディジタルメディアプロフェッショナルは株式市場で注目を集めた技術系のIT企業。精細な画像を表示するために必要なグラフィックIPコアの開発を手がける。最大の注目点は独自開発した3Dグラフィックス拡張機能を搭載したソフトが、携帯ゲーム機「ニンテンドー3DS」に採用されていること。株式の需給面には多くの懸念を抱えていたものの、初値は公開価格を27%上回る3050円となった。
7月21日マザーズ上場でデジタル画像処理ソフトのモルフォも初値は公開価格比2.15倍の4840円へ大幅高。急ピッチで普及するスマートフォン分野でも活躍が期待される、この東大発ベンチャー企業は株式市場では先に上場したディジタルメディアプロフェッショナルとイメージの似たタイプの技術系ITベンチャーと認識されており、初値買い意欲が駆り立てられたようだ。
上場銘柄数は相変わらず少なく、これら以外の案件の初値は公開価格を割り込むものが目立った。しかし過去2年ほどの冬の時代のIPOマーケットには話題のIT系ベンチャー企業の初値を上昇されるパワーもなかっただけに、この3社の初値動向は年初に期待していたIPOマーケットの復活を感じさせるものだった。
東日本大震災後、日本経済は力強い復興を遂げているが7月に入り米国発の全世界株安、為替の急速な円高によって東京株式市場は再び窮地に立たされている。それでも9月には新たにクラウドサービスやソーシャルアプリを手がける企業の上場が観測されているなど、IT系ベンチャー企業のIPOマーケットは期待材料を抱える。より、復活色の強まる展開が期待できそうだ。
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