解説:PC事業のノウハウが生む「イノベーションの乗数効果」--東芝、西田会長に聞く

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 2010年は、東芝のノートPC事業にとって、25周年を迎えた節目の1年だった。同社は、1985年に世界初のラップトップPC「T1100」を欧州で発売。それから25年目がちょうど今年だったのだ。そして、同社は今年、ノートPC累計出荷1億台も達成している。

 「世界初のラップトップPC」という点については、NECが1984年にポータブルPCのPC-8401Aを発売しているとし、こちらも世界初の座を譲らないが、東芝がこの製品をきっかけにして、ノートPC市場を長年に渡ってリードしてきたことは確かだ。

 東芝では、この25周年を記念して、12月18日から2011年1月29日まで、神奈川県川崎市の東芝科学館において、ノートPCの発売25周年を記念した企画展「−東芝ノートPC25周年−“できない”から“できる”へ変わった 〜未来へ進化し続ける東芝ノートPC〜」を開催している。この初日となる12月18日に、東芝の取締役会長である西田厚聰氏が特別講演会を行い、長年に渡ってPC事業に携わってきた西田氏ならではのエピソードが語られた。そして、その後、短時間ではあるが、筆者は西田氏に単独インタビューする機会を得た。

西田厚聰氏 東芝取締役会長の西田厚聰氏

 講演、インタビューを通じて感じたことは、東芝の企業経営において、西田氏が経験したPCでの成功体験が数多く受け継がれていることだった。重電メーカーとして、社会インフラなど重厚長大型ビジネスが経営の大きな柱となっている同社において、軽薄短小型のPC事業のノウハウが数多く生かされているのは驚きだ。

 実際、「私が経験したPC事業のノウハウを、あらゆる部門に移植しようということも考えた」と西田氏は明かす。

 PC産業の特徴は、技術変化が激しく、新製品投入サイクルも短期間。さらに、オセロゲームのように瞬時に勝者が変化するという厳しい環境にある。そして、垂直統合型ビジネスが勝利の方程式とは限らず、グローバルな水平分業型ビジネスが重要な意味を持つ。標準化の流れや市場変化、為替の動向などをとらえた迅速な判断が求められる。

 薄型テレビ事業は、PC産業に近い環境にあるともいえるが、東芝は液晶パネル生産のIPSアルファから出資を引き上げ、社外から調達する体制に一本化。さらに台湾のODMを活用しテレビ生産を委託。これにより、他社に先駆けて黒字化を達成することに成功している。一方、PC事業とは対照的ともいえる社会インフラ事業においては、火力発電事業を他社でも生産できるという観点からあえて「コモディティ化した事業」と発言。SCM(サプライチェーンマネジメント)を活用しながら、いかに早く、高い品質のものを、市場に提案できるかといった発想を社内に植え付けた。

 また西田氏は、「イノベーションの乗数効果」という表現を用い、PC産業が25年間で25倍となる一方で、新たな産業を創出している現状などを示す。

 「ノートPCに搭載された液晶ディスプレイやプラズマディスプレイが、その後、薄型テレビへと利用されている。同様に、リチウムイオン電池も自動車産業に応用され、ノートPCに搭載されたハードディスクもレコーダーやテレビ、カーナビゲーションシステムに利用されている」(西田氏)

 こうした点が乗数効果であり、「この環境を東芝社内に持ち込みたい」とする。実際、PC事業とテレビ事業の連動による新製品の創出など、複数の事業が連携することでの事業拡大も実績として表れている。

 業界内を見回してみると、「Smarter Planet」の提唱により社会インフラ分野にも強く踏み出す日本IBM社長の橋本孝之氏や、クラウドビジネスを切り口にグローバル展開を本格化させる富士通の山本正己氏もPC事業の出身者だ。そして、12月連結決算で上場来最高の経常利益を達成する見通しである日本マクドナルド社長の原田泳幸氏も、アップルコンピュータでPC事業の手腕を発揮した経験者だ。

 経団連の副会長も務める西田氏は、政府が6月に閣議決定した新成長戦略についても「危機感とスピード感をもって大胆に実行していくことが重要であり、さらに定性的な目標ではなく、具体的な数値目標を提示することも重要である。そして、研究開発費の85%を民間が負担するという現状から脱却し、GDPの4%まで研究開発費を引き上げ、そのうちの1%を国が負担。基礎研究は国が支援し、それを生かした製品を民間が開発し、グローバルに戦う仕組みが必要だ」と具体的にコメントする。日本の経済政策に対しても、西田氏のPC事業での経験が、少なからず反映されることになりそうだ。

T1100 東芝が送り出したラップトップPC「T1100」。ここから同社ノートPCの歴史が始まった
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