前回はV-LOW帯がようやく進み始めたことを紹介しましたが、一方の携帯端末向けマルチメディア放送、「V-HIGH帯」は受託放送事業者の申請を締め切られ、比較審査の段階に入っています。
その公開説明会が6月25日に実施され、申請したマルチメディア放送とメディアフロージャパン企画の2社から放送方式や置局計画、普及計画、財務計画などについて説明がありました。
V-HIGH帯の受託放送事業者は1社のみといわれており、ISDB-Tmm規格(マルチメディア放送)とMediaFLO規格のどちらかが採用されます。公開説明会は一般傍聴も可能であり、募集をかけたところ、定員の2倍以上の応募があったようで、大変注目されています。
名乗りを上げたプレイヤーの概要は以下の通りです。マルチメディア放送はNTTドコモ、フジテレビ、ニッポン放送、伊藤忠商事、スカパーJSAT、日本テレビ、テレビ朝日、TBS、電通、住友商事が出資し、日本規格を掲げた全日本連合チームであり、一方のメディアフロージャパン企画は、KDDIとクアルコムの2社からなる、すでに米国ほかでビジネス展開されている規格を掲げています。
両者の違いは明確なため、総務省が定めた開設指針の要件(受託放送事業者が5年以内に全国の世帯カバー率を90%以上とする旨等)の中で、どのような選別基準のもとで決定されるのかが焦点になっています。
公開説明会では活発な議論が展開されました。申請者のプレゼンテーションのほかに、モデレーター、申請者同士の質疑応答がありました。
ところで、以前もこのような「通信キャリア間の競争」がありました。2.5GHz帯広帯域無線アクセスシステムのWiMAX申請時に同じような光景がみられました。その時はKDDI陣営が選択され、現在UQコミュニケーションズとしてサービスが行われています。
しかし今回は、通信規格ではなく放送規格であるところがポイントです。さらに大きな相違点は、どちらの規格が採用されるにしても、ひとつの統一規格の下で全キャリアは対応を迫られることになります。つまり、勝者の規格を負けた側は採用することが要求されることを意味します。
また、今回の研究会では、インフラ費用、委託事業者のコスト負担等が試算されていましたが、今のメディアビジネス環境や消費者のマインドからみて、サービスの普及・定着には苦労の多いことが予想されます。
いずれにしても、国民共有の資産である電波について、この新しいメディアサービスを通じ、有効活用されることを願っています。
◇ライタプロフィール
戸口功一(とぐち こういち)
1992年(株)メディア開発綜研の前身、菊地事務所(メディア開発・綜研)にてスタッフとして参加。2000年法人化で主任研究員、2005年より現職。1992年電通総研「情報メディア白書」の編集に参加。現在も執筆編集に携わる。その他、インプレス「ケータイ白書」、「ネット広告白書」、新映像産業推進センター(現デジタルコンテンツ協会)「新映像産業白書」、「マルチメディア白書」、「デジタルコンテンツ白書」の執筆および経済産業省、総務省の報告書等を多数手掛ける。
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