IBMの研究者が米国時間3月3日、銅線の代わりに光を用いてコンピュータチップ間の通信を行う機器の開発について発表した。
この新技術は、エネルギー効率のさらなる向上を目指し、コンピュータチップ間の通信に電子信号以外の手段を採用する上で、1つの進歩と言える。
「ナノフォトニックアバランシェ受光器」(nanophotonic avalanche photodetector)と呼ばれるこの機器は、同種の機器の中でも最も高速で、電子工学の未来にとって「重要な意味」を持つと、IBMでは述べている。
IBM Researchの科学技術担当バイスプレジデント、T.C. Chen氏は声明で「この新技術は、オンチップ光接続という構想の実現を大きく後押しするものだ」と述べた上で、「光通信機能をプロセッサチップに組み込めば、エクサフロップス級の性能を備えた電力効率の良いコンピュータシステム構築も、それほど遠い未来の話ではなくなるかもしれない」と語っている。
この新技術の鍵は、マイクロプロセッサチップの製造原料の1つであるゲルマニウムにおける「アバランシェ(なだれ)効果」と呼ばれる過程にある。これは、山で起きるなだれのように、入射した光パルスが雪だるま式に電荷担体の電離を引き起こし、最終的に、元の信号が何倍にも増幅される現象を指す。
IBMによると、このアバランシェ効果の進行速度が遅すぎるため、既存のアバランシェ受光器では高速の光信号を検知できないという。
これに対し、IBMが新たに開発した機器は十分高速なので、光信号を40Gbpsで受信すると同時に10倍に増幅可能だ。
この場合、アバランシェ効果による増幅は、数十ナノメートルの範囲内で発生するため、既存の機器と比べて増幅による雑音を50〜70%抑えることができる。
今回の声明の主執筆者であるSolomon Assefa氏は「この大幅な性能向上は、既存の限界をはるかに超えたパフォーマンスを実現しようと、わずか原子数十個のレベルで光学的、電気的特性を操作した成果だ」と述べている。「この小型機器は、非常に弱い光パルスを検知して、かつてない帯域幅でその光パルスを増幅するとともに、不要な雑音の付加を最小限に抑えられる」という。
この機器はシリコンとゲルマニウムを原料に、標準的なチップ製造プロセスにより作られており、わずか1.5Vの電圧で動作する。IBMによると、これは以前にデモで使用された電圧の20分の1だという。
これはつまり、この光検出器からなるアレイは、既存の機器が必要とする20〜30Vの電源ではなく、小さい単3電池を電力源にできるということなので、重要な点だ。
以下にこの技術を解説した動画を紹介する。
この研究は、2010年3月号の雑誌「Nature」に発表された。
この記事は海外CBS Interactive発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。原文へ
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