絵文字が開いてしまった「パンドラの箱」第6回--Google・Apple提案とそのシナリオ - (page 2)

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欧米のエンジニアが絵文字を嫌った理由とは?

 さて、そこでEmojiアドホック会議の審議を詳しく見ようと思いますが、その前に、ここまでの流れを思い出してみましょう。2008年11月27日、日本の携帯電話の絵文字をUnicodeに収録しようとする計画がGoogleによって公表され、翌月にはそのパブリックレビューが開始されます。この計画には、iPhoneの日本発売で絵文字に対応する必要に迫られていたAppleも加わっています。そこで以下、提案者の名前をとってこれを「Google・Apple提案」と呼びます。(なお、提案者に名は連ねていませんが、Microsoftも検討に加わっていました。彼等もWindows 7にデジタル放送の文字コード規格(PDF)※1)を実装するため、そこで収録されていた絵文字のUnicode収録をすすめていたのです。その結果が「Windows TV ゴシック」というフォントです)。

 ところがこれに対し、主として欧米のソフトウェア・エンジニアが参加するUnicode公式メーリングリストで非難の嵐が吹き荒れました。「うんこ」「ラブホテル」という絵文字が含まれていたり、外見がそっくりな本や四角形がいくつも収録されていたり、世界の国旗のうち一握りだけが収録されていたりといった点が、世界中の人が使う国際的な文字コードの規格にふさわしくないと受け止められたのです。

 しかもGoogle・Apple提案は、日本の絵文字をUnicodeとの重複を除き1文字の漏れもなく収録するものでした。この手法を「ソース分離」といい、これによって元の規格との互換性は完全に確保されます。ところがUnicodeの原則では似た字は統合するとされてきましたから、これは破格の優遇策です。今まで日本の絵文字など知らずにきた欧米のエンジニア達が「こんな奇妙で俗悪な文字が、なぜそこまで優遇されるのだ」と、感情的に反発したのも理解できる話です。

 そんな強引ともいえるGoogle・Apple提案ではありましたが、Googleの幹部であると同時にUnicodeコンソーシアム理事長であるマーク・デイビス自らが主導する事情もあってか、2009年2月にUnicodeの最高議決機関、UTC会議で承認されます。そしてUnicodeコンソーシアム自身が提案者となり、国際規格ISO/IEC 10646への収録を目指して同年4月20〜24日に開かれたWG 2ダブリン会議に持ち込まれまれたのです。

 UnicodeとISO/IEC 10646は文字セットを共有しているものの、あくまで別の規格です。前者が業界団体による私的な規格であるのに対し、後者は国の代表が集まって決める公的な規格です。新しい文字の審議も別々にすすめられます。両者の連繋については第3回を参照していただくとして、そのGoogle・Apple提案を含む審議用文書がN3580(PDF)『Pre-meeting 54 charts showing characters in the pipeline - Charts for new repertoire, including PDAM7』(第54回会議以前の新レパートリ一覧表/PDAM7を含む)です。

 ところが、ダブリン会議まであと2週間となった4月6日、待ったをかける形でアイルランドNBとドイツNBが共同で対抗案が提出してきました。これがN3607(PDF)『Towards an encoding of symbol characters used as emoji』(絵文字として使われるシンボル文字の符号化に向けて)です。以下、これを「アイルランド・ドイツ提案」と呼びます。

 そこでの内容を簡単に言えば、元のGoogle・Apple提案を根本的に配列し直し、新規に文字を追加し、多くの文字の名前を変更、さらに文字のデザインを汎用的なピクトグラム調のものに変更するという、いわば荒療治を施したものでした。

 実はこの提案の起草者であるマイケル・エバーソン(アイルランドNB)とカール・ペンツリン(ドイツNB)は、前述したUnicode公式メーリングリストで絵文字の収録に強く反対していた当人です。その意味ではメーリングリストでの大論争が、WG 2に飛び火したと見ることもできます。しかし彼等がそこまで大きな変更を加えた理由を、ネットの喧嘩の意趣返しと考えてはいけません。彼等が抵抗したもっとも大きな理由は、絵文字のもつ根本的なある性質にありました。

※1)お詫びと訂正

 読者の方から、単に「日本のデータ放送規格」ではアナログのデータ放送と混同されてしまう旨のご指摘をいただいた。まことにその通りでこの違いは大きい。ご教示に感謝し、謹んで訂正いたします。

修正前:

彼等もWindows 7に日本のデータ放送規格(PDF)を実装するため、そこで収録されていた絵文字のUnicode収録をすすめていたのです。

修後前:

彼等もWindows 7にデジタル放送の文字コード規格(PDF)を実装するため、そこで収録されていた絵文字のUnicode収録をすすめていたのです。

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