以上、「色と動き」およびキャリア絵文字変換サービスの「片道だけの変換」について、文字コードによってこれらと互換を実現することの無理を説明しました。ただし、こうした無理があったとしても絵文字のUnicode収録には意味があると考えています。Unicode自身の意図はあくまでも3キャリアとの互換ですが、これを言い換えると、所詮は多くの矛盾に目をつぶった互換目的にすぎず、将来にわたって使いつづけるようなものではないと言えます。むしろ、現在使われている絵文字の文字コードが国際化されることにより、これをジャパン・ローカルな枠組みから解き放てる効用にこそ注目すべきでしょう。
その上で長期的にはこれを国際標準化されたcHTMLなりXMLなりに置き換え、そこで各種の需要に合わせた拡張をすすめ、他国もふくめた新たな段階の絵文字文化を切り開くというのが、ごく自然な絵文字の技術トレンドであるように考えます。データフォーマットとしてなら色や動きも再現でき、フォールバック対応のような無理をする必要もないからです。もっとも、これはあくまで絵に描いた餅です。その餅が実際に食べられるようになるかは、絵文字を実装している、あるいは実装しようとしている各社の今後の動きにかかっています。
さて、この連載は3回の約束で始めたのですが、書くのが面白すぎて申し訳ないことに今回で終わりませんでした。ここまで読んで出てくるであろう疑問は、なぜUnicodeはそこまでして3キャリアとの互換にこだわったのかということでしょう。そしてもう1つ、前回も述べたように草創期からUnicodeを作ってきた人達はこの提案に強く反対しました。反対した人は彼等だけではありません。この問題が公にされるやいなや、Unicodeのメーリングリストは議論が沸騰し、まさに蜂の巣をつついたような大騒ぎになったのです。一体なにが彼等をそうさせたのか? 引き続き次回完結編のご愛読をお願いする次第です。
1959年生まれ、和光大学人文学部中退。
2000年よりJIS X 0213の規格制定とその影響を描いた『文字の海、ビットの舟』を「INTERNET Watch」(インプレス)にて連載、文字とコンピュータのフリーライターとして活動をはじめる。ブログ「もじのなまえ」も更新中。
主要な著書:
『活字印刷の文化史』(共著、勉誠出版、2009年)
『論集 文字―新常用漢字を問う―』(共著、勉誠出版、2009年)
主要な発表:
2007年『UCSにおける甲骨文字収録の意義と問題点』(東洋学へのコンピュータ利用第18回研究セミナー)
2008年『「正字」における束縛の諸相』(キャラクター・身体・コミュニティ―第2回人文情報学シンポジウム)
2009年『大日本印刷における表外漢字の変遷』(第2回ワークショップ: 文字 ―文字の規範―)。
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