絵文字が開いてしまった「パンドラの箱」第3回--Unicode提案の限界とメリット - (page 4)

片道だけの変換をする「フォールバック対応」

 すいません、以上の説明で1つだけ嘘をついていました。「台風」は現状の絵文字変換サービスでは一対一対応と言ったのですが、じつはよく調べてみるとそうではないのです。図4を見てください。ちょっとややこしいことに、本当はNTTドコモの「台風」だけがKDDIの「なると」とも対応しているのでした。つまりキャリアの絵文字変換サービスでは、「台風」「なると」という根本的な意味の違いにもかかわらず、外見上の相似だけをもとに両者を対応させているのです。

「台風」と「なると」における3キャリア絵文字変換サービスとUnicode提案 図4「台風」と「なると」における3キャリア絵文字変換サービスとUnicode提案(出典:前出Emoji Symbols: Background Data)(※画像をクリックすると拡大します)

 じつは既存の絵文字変換サービスにおいて、図3で示そうとしたように3キャリア間で双方向の情報交換ができ、しかも他の文字から対応が独立しているという組み合わせは、そんなに多くないのです。よく見ると多くは図4のNTTドコモのように他の文字ともつながっています。つまり一対一対応ではなく、一対多対応というケースがかなり多い。情報交換では一対一対応を基本原則とする文字コードの世界では、一対多対応を許しているというと怪訝な顔をされるはずです。つまり既存のキャリア絵文字変換サービスは、普通では考えられない「異常な世界」であったわけです。

 これを理解するために、もう少しくわしく図4を見てみます。「台風」に関して3キャリアは完全に往復の情報交換が可能ですが、KDDIの「なると」がNTTドコモの「台風」に片道だけつながっています。つまりKDDIの「なると」はNTTドコモの端末に送られると「台風」(0xF8A4)に変換されます。しかし逆はありません。NTTドコモからKDDIに「台風」(0xF8A4)を送っても、同じ「台風」(0xF641)です。つまりKDDI「なると」は片道だけの変換です。また、KDDI「なると」をもう一社のソフトバンクに送ると[なると]という文字列に変換されます。当たり前ですがこれも片道だけの変換です。

 こうした状況に対して、Unicodeはどのように対応することにしたのでしょう。太矢印の先を見てください。U+1F300「CYCLONE」と3キャリアの絵文字は赤い矢印で結ばれています。これは3キャリアともに往復の情報交換ができるという意味で、図3下と同じです。これに加えて、UnicodeはKDDI「なると」に対応するためにU+1F4CE「FISH CAKE WITH SWIRL DESIGN」を追加し、これとの間で往復の情報交換を可能にしました。

 しかし、これだけでは互換になりませんね。KDDIだけでなくNTTドコモやソフトバンクとの間でも情報交換できるようにしなければいけない。つまり「FISH CAKE WITH SWIRL DESIGN」とNTTドコモ/ソフトバンクとの対応を決める必要がある。そこで既存のキャリア絵文字変換サービスと同様に、NTTドコモへは片道だけの変換を許し、もう一方のソフトバンクへは[なると]という文字列に変換することにしました。この「片道だけの変換」を、Unicodeでは「フォールバック対応」(fallback mapping)、文字列への変換を「フォールバック・テキスト」(fallback text)と呼んでいます。「フォールバック」とは「代替の」とか「予備の」といった技術用語です。

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