絵文字が開いてしまった「パンドラの箱」第3回--Unicode提案の限界とメリット - (page 6)

色や動きの再現と文字コード

 一応ここまでで「色と動き」「ソース・セパレーション・ルール」「フォールバック対応」という、絵文字符号化にあたっての3つの原則を説明し終わりました。いかがでしたか? ややこしかったでしょう。ここからは、まとめとしてUnicode提案をどのように評価できるか考えてみましょう。一番最初のページからジャンプしてきた方は、わからない用語は適当に読み飛ばしてください。およその意味は通じるよう書いてあるから大丈夫です。

 まず「色と動き」です。前回までの皆さんのコメントを拝見すると、絵文字を符号化すること自体を疑問視されている方が何人かおられました。前述したように文字コード規格が色や動きを符号化の対象にしていない以上、こうした反応は自然と思います。これも前述したように、これらは文字コードでなくデータフォーマットで実現するのが一般的な考え方なのですが、まさにそれをcHTMLというデータフォーマットで実現したのが「デコメール」(NTTドコモ)、「デコレーションメール」(KDDI)、「デコレメール」(ソフトバンク)等と呼ばれるものです。こうしたサービスが現実に提供されている以上、むしろこちらの標準化をWC3などに働きかけた方が将来のためだという意見は、当然のものと思えます。

 これと関連するのですが、第1回で安岡孝一准教授(京都大学)の論文の一節を引用する形で、Unicodeで絵文字を標準化すれば、そのまま既存のキャリア絵文字変換サービスを置き換える「中心的な文字コード」になり得ると書きました。しかし安岡准教授自身が第1回へのコメントで指摘してくださったように、氏本来の意図は絵文字の動き等を再現できないことから、Unicodeだけでは完全な互換性が実現できないというところにありました。安岡准教授の意図を正しく引用できなかったことをお詫びいたしますが、これもまた、動きや色に関して文字コードが対応することの限界を指摘したものと受け取れます。

Unicodeが抱え込んでしまった矛盾

 つまりここで確認すべきは、絵文字の符号化には矛盾と限界があるということなのですが、じつはこのことは他の2つの原則にも言えるのです。いえ、正確にいうと「ソース・セパレーション・ルール」については、WG2の審議に際して「なぜ日本の絵文字ばかり贔屓するのだ」と反発をまねくだろうというだけで、これ自体が絵文字符号化の限界を示しているわけではありません。まあ、ソース・セパレーション・ルールという極めつけの優遇策を絵文字に適用したことについては、日本人の1人として悪い気はしないのが正直なところなのですが、実際のところ3キャリアの絵文字と互換を目指す以上、これは不可避と言えます。WG2の審議でもそうした主張がされるはずです。

 しかしフォールバック対応は、どう考えても筋が悪い。もっとも、これはUnicodeがキャリア絵文字変換サービスと互換をとろうとして抱え込まざるを得なかった矛盾ですから、Unicodeを責めるのはちょっと酷ですね。では、どうしてキャリア絵文字変換サービスで「片道だけの変換」などという異常な手法が導入されたのでしょう。

 推測になりますが、3キャリアのレパートリの非対称性に対処するために導入されたのではないでしょうか。たとえばNTTドコモは他キャリアのものより字数が少なめなのです。それでも本来の手法でいえば、1対1対応にできないものについては「〓」や「・」などを表示するのが筋です。それをしなかったのは、あまりにもそういう字になる変換結果が多くサービス品質が保てないと考えられ、苦肉の策として片道に限定して似た絵文字に変換することを選んだと考えられます(そういう局面で本来望まれるのは、キャリア間のレパートリの「調整」なのですが、そのような血を流す選択はされなかったわけです)。

 では、本来の手法から外れた選択がどのような結果を生むのか、これについて直井靖氏のブログ『Mac OS Xの文字コード問題に関するメモ』で、「ケータイの絵文字はどこまでズレるのか」という面白いエントリが公開されました。

ケータイの絵文字はどこまでズレるのか 図7「ケータイの絵文字はどこまでズレるのか」(出典:『Mac OS Xの文字コード問題に関するメモ』3月6日付エントリ)(※画像をクリックすると拡大します)

 ここで挙げられているうち、ソフトバンク「表情(ぽっ)」→NTTドコモ「うれしい顔」、同じくNTTドコモ「うれしい顔」→KDDI「てれてれ」の2カ所が本来の一対一対応でない「片道だけの変換」です。これが介在した結果として、最初は発熱した表情を表す「熱」だったものが、変換を繰り返すうち最後は安堵を表す「ほっとした顔」にまで意味がずれてしまうわけです(くわしい対応は図5上半分を参照して下さい)。これこそが「異常な手法」がもたらす結果です。もしも「文字コード世界遺産」とでもいうものがあるならば、この絵文字変換サービスは珍奇さのみならず、関わるユーザーの膨大さも評価されて、堂々満場一致の承認を得られるものと思われます。

 この図はあくまでキャリア絵文字変換サービスでの結果ですが、Unicodeの提案でもまったく同じ結果になります。互換を目標としたのだから当然ですね。このように本来あるべからざるキャリアの絵文字の悪い部分についても、Unicodeは互換として抱え込むことになりました。

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