ここで注意してほしいのは、Unicodeの対応は、既存のキャリア絵文字変換サービスと同じ対応にしているということです。最初の方で述べた「絵文字のUnicode提案は、3キャリアとの互換を目的としている」というのは、こうしたところからも見て取れるのです。ただし、いつもUnicodeの対応がキャリア絵文字変換サービスと完全に同じではなく違いもあります。図5を見てください。
これは表情をしめす絵文字の中で、KDDI「熱」(左端)がキャリア絵文字変換サービスにおいて、どのように変換されるかを示した図です。ソフトバンクへの変換先である「表情(ぽっ)」の先では一種名状しがたい混乱が生まれていますが、これは最後のまとめでふれるので、今はスルーして下さい。それより注目してほしいのはNTTドコモへの変換先です。KDDI「熱」をNTTドコモに送信すると[熱]という文字列に変換されることが分かります(緑色円内)。一方、下半分のUnicodeが提案している対応をご覧ください。KDDI「熱」をUnicode経由でNTTドコモに送信すると、文字列ではなく「うれしい顔」になることが分かります。つまりこの部分に違いが出ていることになります。
とはいえ、Unicode提案だけを見たら、なぜ「熱」が「うれしい顔」に対応づけられるのか不思議に思えるでしょうが、キャリアの絵文字変換サービスと照らし合わせると、Unicodeはこれを参照した上で「うれしい顔」を選んでいることが分かると思います。同種の例は他にもあり、どうもフォールバック・テキストよりも符号に対応づけられる分だけフォールバック対応の方が互換性が上であるとの判断があるように思えます。
このようにフォールバック対応そのものは、3キャリアの絵文字変換サービスと互換をとろうとした結果としてUnicodeに導入されたものと考えられます。しかしこれは、Unicodeに喩えようもないほどの複雑さをもたらすことになりました。つぎの図を見てください。
軽い目眩さえしてくるこの図が、今回の原稿におけるクライマックスです。最初に「混沌の館」と書いた意味がおわかりいただけたでしょうか。本来NTTドコモ「わーい(嬉しい顔)」(円内)は、U+1F3A7「HAPPY FACE WITH OPEN MOUTH」(左上)と往復の情報交換ができるよう対応づけられていますが、それ以外になんと8つものUnicode符号位置がフォールバック対応で関連づけられているのです。そのUnicode符号位置はさらに別の絵文字ともフォールバック対応していて、全体としてまるで蟻の巣のごとき複雑怪奇な形状をなしています。
本来の文字コードの変換では1対1対応(赤矢印)しか存在しないことを考えれば、この図がどんなに異常なものかお分かりいただけるでしょう。この例は一番複雑な例ですが、なにも特別なものではありません。
ほかにもNTTドコモ「黒ハート」が6つのフォールバック対応になっていますし、1つや2つのフォールバック対応となると数え上げるのも面倒なほどです。じつのところ、絵文字は3キャリアだけでなくイー・モバイルだって提供しているのですが(ウィルコムはNTTドコモと互換)、Unicodeが互換の対象にイー・モバイルを加えなかった理由は、市場占有率だけでなくフォールバック対応にもあるように思えます。3キャリアだけでもこれだけ複雑なところに、さらに増やせば一体どうなるかということ。考えたくもないというのが個人的な感想です。
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