一方、金融機関からの融資獲得は、事業計画・事業内容の説明がなによりのポイントとなる。八木橋氏は「口頭だけでなく、文書化すること。それがあれば銀行の担当者が上司を説得する材料になる」と、銀行員の立場で説明する。さらに「ベンチャーは見えない“未来”をどうやって見せるか。その見せ方が肝心」と語り、創業期には“経営理念”、“経営計画”に加えて、経営者の経歴や事業を成功させることができる技術・特許など、説得力のあるデータを明示し、具体的な返済計画の作成が不可欠だとした。
また金融機関には、決算書をもとにして融資先の3〜5年間の信用力について最低でも年に1回評価する「企業格付け制度」というものが存在するという。さらに、これをもとに債務区分という分類を行い、これらは銀行が金利を設定する際の重要な指標となる。銀行によっては格付けが1段階違うだけで金利差が約2%になる場合もあるといい、企業としてはポイントアップにできる限り努めたいところだろう。
八木橋氏によると、企業格付けで重要な要素のひとつとなるのが「財務評価」だ。この評価を上げるために、まずは財務内容を正しく情報開示し、企業の健全性をアピールすることが重要となるという。そして、それをもとにした短期財務改善計画や長期改善計画を定期的に作成するなど、具体的な改善策の実行が求められる。八木橋氏は「とにかく毎月しっかりやることが重要。決算書も2〜3カ月前からやれば、ゴールを見据えて見栄えのいいものができるはず。早めに手を打つこと」と語り、経理処理は最低でも週ごとに行い、月次処理を徹底することを強調した。
これに加えて、企業格付けでは経営理念や経営計画、社員教育、後継者の育成といった「非財務評価」も影響するという。これらは定量化した評価が難しい項目だが、従業員の応対が貸付金利を左右する可能性もありうるので、侮ることができないポイントだ。また、銀行によってはネガティブチェック項目が設けられていることもあり、「中小企業倒産防止共済に加入していない」「資金使途違反がある」「主要取引先が変更になった」といった実態は、減点対象になるので注意すべきだ。
金融機関は、都市銀行をはじめ、地方銀行、信用金庫、信用組合、農協・漁協に分類される。それぞれ目的や役割は異なり、状況に応じてメリット、デメリットがあるので、性格をよく知り、うまく使い分けることが必要だ。たとえば、都市銀行との取引は企業にとってのステイタスにもなりうるが、企業格付けはより厳しくなる。金融庁が2003年に示した“リレーションシップバンキング”の指針により、地方銀行や信用金庫・信用組合では、中小企業に対する貸し付けは柔軟で総合的な見方をすべきだという見解が示されている。そのため、これらの金融機関の企業格付けは勘案することができるという。しかし、都市銀行の場合は、一度査定した評価を変えることはできず、より厳格である。
また、法人企業の場合、経営者が亡くなった場合の借入金は、原則として後継者が引き継ぐことになる。しかし、多くの場合は、保証債務は遺族が相続する可能性が高く、万が一に備え、保障を用意することも必要コストだと八木橋氏は説明する。また、「借入金は税引き後の利益で支払わなければならない。法人税があることも忘れてはいけない」と述べ、借入金に対する遺族への保障額の目安は「借入れ金額の6割」と、リスク対策についても解説された。
セミナーの最後には、弥生代表取締役社長の岡本浩一郎氏が登場。かつて自身で起業した経験を持つ岡本氏だが、「起業は決して特別なことではない。起業のあと、いかに企業を成長させていくかが重要。そのためには財務・会計は重要な要素」と語った。同社では今後もETICなど共同で起業家やNPO向けのセミナーなどを開催する予定。
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