「有害サイト規制法案は、実は地方ではほとんど報道されていない。このような段階で一斉に規制するとなれば、絶対に混乱が生じる。周知徹底をすべき」――全国高等学校PTA連合会会長の高橋正夫氏は、青少年が携帯電話から有害サイトを閲覧できないようにフィルタリング機能の搭載を義務づけるべきとする、有害サイト規制法案について、こう苦言を呈する。
これはモバイルコンテンツ審査・運用監視機構(EMA)が6月4日に開催した「第1回EMAシンポジウム」の中で述べたものだ。
EMAは、青少年を違法有害情報から保護し、健全なモバイルコンテンツの発展を促進することを目的に、有識者等からなる第三者機関として4月8日に設立された。モバイルサイトの健全性を審査し、問題のないサイトについてはフィルタリングの対象から外すよう働きかける役割を持つ。
「今、親の世代が取り組まなければいけない施策」と題して講演した高橋氏は、保護者の代表として「現在高校生の98%が携帯電話を所持している。一斉にフィルターによる規制がされたら(現場が混乱して)大変なことになる」と、法律が施行された場合の不安を訴えた。高橋氏自身、フィルタリング規制の話は2007年12月にはじめて耳にしたという。保護者の立場から意見を聞きたいと要請され、現在は総務省のインターネット上の違法・有害情報への対応に関する検討会の構成員として参加している。
高橋氏は、「なぜ国が(青少年にフィルタリングを)強制できるのか」と不信感をあらわにする。「フィルターをかけること自体に反対しているのでなく、小学校1年生から高校3年生に対して同じレベルで行われることに疑問を感じる。ネットをうまく使いこなしている生徒もたくさんいる」(高橋氏)と、実態を把握せずに一様に規制しようとする法律の問題点を指摘。「フィルターをかけるかどうかは、保護者が理解した上で自主的に判断できるような選択肢を残しておくべき。あくまで家庭の問題であり、国が関与すべきではない」と主張した。
この問題について「規制ではなく教育が必要」と強く主張するのは、ビジネスコンシェルジュ兼ネット教育アナリストの尾花紀子氏だ。尾花氏は「デジタルコミュニケーションの現状と青少年と日本経済の今後〜望まれる『推奨』『規制』『学び』三本柱の取り組み〜」と題して講演し、保護者も含めたITリテラシーの向上の必要性を説いた。
尾花氏は、パソコン創世記から現在に至るまでの社会を取り巻く環境の変化と世代を整理し、「平成生まれの子どもたちはネットがインフラとしてなかった時代を知らない。子ども時代にIT機器が存在しなかった親の世代とのギャップは埋まるはずがない。そこをまず認識すべき」と語った。さらに「今の子たちはネットをよく使いこなしている。ただ、プライベートツールとしてしか使っていないので、ビジネスツールとしての使い方を知らない。だから、例えば社会人になって会社の機密情報を平気でブログに載せてしまったりする。親たちの世代が当たり前と考える機密保持の感覚が教育されていない。世代が違うと思って、そのギャップを教育で埋めていかなければならない」と話した。
また、「少子高齢化に伴い、労働人口が極端に減少するなか、日本が経済成長を続けていくには、ITツールをいかに使いこなし、効率アップにつなげていくかが重要」と述べ、携帯電話の利用には、規制ではなく教育の強化が必要だと訴える。「教える人がいない」と消極的な学校側の姿勢に対しては、「IT教育は必ずしも専門的な知識が必要というわけではない。ITをテーマにした文章を教材にすれば、必要なのはITの知識ではなく読解力。国語の先生でもできるはず」と提案した。
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