昨今話題のOpenIDは、一つのIDを複数のサイトで利用できる認証システムと、そのID自体を指すものです。どこかのサイトでOpenIDを取得すると、次回からはOpenIDを導入しているサイトであれば、新規に登録しなくても同じIDで利用を開始できることが取りざたされています。
しかし、一見便利そうなものの実際にはそれほど便利なものではないとの話もあります。それは一人の人間が利用するIDの登録が必要なウェブサービスの数は、初心者でもない限りほぼ固定化されており、毎日増え続けるようなものではないからです。また、新規性のある仕組みはいくら技術的に優れていても、ユーザーに利便性のないものがなかなか定着するものではありません。ではOpenIDの本当の利便性はどこにあるのか?
私はソーシャルグラフの概念と組み合わせることで現れてくるものではないかと考えています。
Brad Fitzpatrick氏が提唱しているソーシャルグラフの概念の中にユーザーとその関係を表すデータは、ユーザーに帰属し、どのサイトでも利用できるべきとの話があります(DataPortability.orgも近しい概念です)。
そしてOpenIDはサイトをまたいで共通のIDを利用することから、サイトの運営者側からはサイトをまたいでユーザーを一意に同定することが可能となります。つまりこの二つの概念が組み合わさることでユーザーは「サイトをまたいでIDを利用できる」だけでなく「サイトをまたいでIDとそれに関連するすべてのデータを利用できる」ようになり、一方でサイト運営者側は他のサイトで生成されたユーザーデータを自らのサービスに利用し、ユーザーへ付加価値を与えることができると考えられます。
これが実現するとソーシャルグラフは単独のサイトではなく、異なるサイトをまたがり豊富な集合知を解析することで、より精度の高い気づきを与えるソーシャルグラフを提供することが可能となるのです。
これは推測でしかありませんが、OpenIDを提唱していたBrad Fitzpatrick氏自身がその次にソーシャルグラフを提唱したことも同じ発想が存在したことによるものなのかもしれません。しかし、OpenIDとソーシャルグラフの概念の将来を想像すると、おのずとこの答えに辿り着く気がします。
ユーザーのデータを異なるサイトでまたがって利用する手法は、以前より、ポータルサイトなどの会員登録が必要な大規模サイトの中で、サービス連携という形で、利便性を上げる手段として取り入れられていたものです。
例えばポータルサイト内では、どのサイトを利用してもプロフィールやポイントプログラム、同じアバターが、SNSとブログで使えたりするといったものです。同じようにOpenIDやソーシャルグラフ的な概念がネットの世界に普及するとインターネットの世界全体が一つのポータルサイトのような利便性を提供することが考えられます。
その中でもユーザーに関係する全ての情報をソーシャルグラフ化することは大きな利便性を提供できる可能性のあるアプローチの一つであると言えます。
ソーシャルグラフはサイトをまたいで利用することで、ユーザーへ提供する価値を向上させることができることを述べて参りました。そして他にも最近登場した概念や手法を整理すると、ユーザーの利便性よりも囲い込みを優先していた今までから、いよいよネットの世界が共通化と共有化というオープン化の方向に走り出したと言えるでしょう。
例えば
上記のように、インターネットサービスの提供に必要なレイヤーすべてにおいて、共通化、共有化に向かっていることがわかります。これによりユーザーとサイト運営者のインターネットへの向き合い方に変化が訪れると考えられます。
[ユーザー]
[サイト運営者]
ポータルサイト ライブドア立ち上げ、ライブドアブログを初めとした、50以上のネットサービスを立ち上げる。同時に広報部長も兼任しライブドアのPRに貢献した。現在はゼロスタートコミュニケーションズにて社内外のサービス企画とプロモーションのコンサルティングに当っている。著書に「CGMマーケティング」、「ブログ炎上」、「情報化白書2007」がある。
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