すでに米国では、SaaSなどのネット中心型のITサービスが、大企業ではなくSMB(零細〜中小企業)やベンチャーなど成長志向の企業に広く普及する傾向がある。SaaSはネットワーク、それも社会インフラのひとつとなったインターネットの存在が前提となっている。
SaaSのようなモデルでは、今までのソフト販売(売切り)型の対価徴収ではなく、購読型による長期的な収入が見込みやすい。また、アップグレードなどの現状の製品形態に合った仕組みの導入や、広告掲載など企業からの収益機会の追加、あるいはそれに依存する(地上波放送のような形であり、すでにGoogleが提供している)形で利用者に無償でサービス提供するモデルも視野に入ってくる。
もちろんMicrosoftのパッケージ製品であるWindows(OS)やOfficeなどのクライアント/サーバアプリケーションなどからネットに接続して、結果的にそれらのユーザーをネットに軸足を置いたサービスへ誘導していくという発想もあるだろう。だが、こういったアプローチに対しては独占禁止法という視点から不適切という烙印が何度も押され、欧米でMicrosoftは煮え湯を飲まされた記憶がある。
だからこそ、現状のMicrosoftの主たるビジネスには直接的に影響せず(だからこそ、MSNやLiveなどが中途半端になるわけだが)、すでにある程度ユーザーを確保しており、米国や欧州だけではなく日本や中国などの市場で圧倒的な存在のサービスを提供する関連会社をもつYahoo!ブランドのビジネスが魅力的になってくる。そう、今後間接的な影響力を及ぼすための拠点として。
とはいえ、米国におけるSaaSなどのサービスがSMBへ今後も普及し、現状のMicrosoftのビジネスモデルを脅威に晒すかという点については、少なくとも短期的には不透明だ。いや、多分にそれほどの影響はないだろう。気がつけば圧倒的なパワーを有していたGoogleに対する恐れはMicrosoftに根強いものの、将来のための間接的な戦略の布石として莫大な投資をYahoo!買収にかけるほどの確度が本当にMicrosoftにはあるのだろうか。
もっと端的にいえば、すべてのITサービスはネットセントリックなものに完全に移行するのだろうか。あるいはOSやアプリケーションはパッケージによって築きあげたモデルをネット上で完全に失うのだろうか。確かにウェブアプリの進化は凄まじく、Microsoftにとって脅威に映るであろうことは理解に難くない。Google Gearsのようにネットに接続していない状態でもアプリを利用可能にする仕組みも提供されつつある。しかし、それはPCのような、今となってはヘビーウェイトなハードウェアで稼働するのがせいぜいだ。ネットを前提とした利用シーンの多いモバイルなどのアプライアンスで利用するには、まだまだ多数の困難がある。
そんな不確定要素が多い中であってもMicrosoftはYahoo!を経由してネットセントリックなサービスを展開しようという意図があることが、今回の提案で明らかになった。では、それはいつ果実を結ぶのだろうか。Googleら競合はYahoo!へ援助の手を差し伸べるよりも、別の方略を選ぶことになりそうだ。このことにより、ストレートにネットセントリックなサービスに打って出ることが危険とみなすプレーヤーもいることだろう。見えそうで見えないトリッキーな次世代のITエクスペリエンスを誰が最初に提案するか、そしてそれがどんな提案になるか、心待ちにするのは筆者だけではあるまい。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」