多くの人が、セマンティックウェブは登場以来一定の期間を経て成熟に向かいつつあると考えている。われわれはこの流れを何度もとりあげており、われわれの2本の最も有名な記事は古典的なボトムアップアプローチの課題の分析と、新しいトップダウンアプローチの展望に関するものだ。セマンティックウェブがどのように登場するにせよ、繁栄するためには主流派を取り込む必要がある。消費者はRDF(Resource Description Framework)やOWL(ウェブオントロジー言語)の美しさや数学的な健全性を評価したりはしない。彼らは数学には興味がなく、便利さ、あるいはむしろ楽しさを気にするのだ。セマンティックウェブに必要なのは、キラーアプリケーションだ。
それが何であれ、消費者のためのアプリケーションの上にセマンティクスの理解というレイヤをかける必要がある。消費者のためのアプリケーションは、ユーザーにセマンティック技術を使っていると知ることができ、格好がよくて口コミを呼ぶ魅力を持ったものである必要がある。そうなれば、他のアプリケーションをセマンティックウェブアプリケーションとして売り込むことができる。セマンティックウェブアプリケーションに可能性があると理解されれば、他のものも理解してくれるかもしれない。数学ではこれを帰納法による証明と呼ぶ。マーケティングではこれを市場の創造と呼ぶ。とにかく、これが不可欠なのだ。
この記事では、セマンティック技術を使った既存の有望なアプリケーションを分析し、キラーアプリケーションを探していく。
その始まりから、セマンティックウェブは人工知能と結びついていた。情報をコンピュータが「理解」できるような構造化された形で表現し、それから複雑な問題を解くというのが、セマンティックウェブのビジョンの重要な要素の1つだ。問題は、何十億という既存のウェブページをRDFで表現するのは極めて困難であるか、不可能だということだ。代わりに、コンピュータに自然言語を「教える」という方法がある。アプリケーションが人間と同じようにページを読み、なんと言っているかを翻訳できれば、注記は必要なくなる。
自然言語処理は、昔からAIの聖杯だった。しかし、これは非常に難しい問題だ。人間は生まれつき言語を理解する能力を備えており、何もないところからではなく、生活の文脈の中で言葉を習得する。これをコンピュータで再現することができれば確かにすばらしい。キラーアプリケーションになるだろう。問題は、その兆しがないことだ。現在のセマンティックウェブ技術は自然言語を完全に解析することはできず、しかもそれはセマンティックウェブ技術の本来のゴールでさえない。それぞれのページを完全に解析できたとしても、その構造をセマンティクスに翻訳するという問題が残っている。これは人間の脳にとってはお手のもので、軽々とやってのける魔法なのだ。
自然言語理解に関係して、まだ実現する兆しの見えない別のアイデアがある。John Markoff氏はこれを「完璧な休暇計画」と呼んだ。私はこれを、不可能であるという意味を込めて「瓶の中の精霊」と呼んでいる。セマンティックウェブとは本当に難しい問題を解く能力だという誤解があるようだが、これは本当ではない。
例えば、初めて行く旅行代理店で、完璧な休暇計画を考えてくれと頼んだとしても、その係員には不可能だろう。なぜなら、その人のことを知らないからだ。完璧な休暇計画を見つけるためには、以前行ったことがあるのはどこか、誰と行くのか、何をしたいのか、予算はどれくらいかなど、制約条件がなくてはならない。「完璧」な休暇計画を見つけることは、1回だけの問題ではなく繰り返しと記録を活用するプロセスなのだ。
セマンティックウェブでは情報が構造化されているのは確かだが、これはコンピュータが複雑な問題を解くことができるという意味ではない。この2つはまったく違うものだ。地図を持っているからと言って、A地点からB地点へ行く最適な経路がわかるとは限らないのと同じだ。地図を持っている必要はあるが、それだけでは十分ではなく、最適な経路を見つけるアルゴリズムも必要だ。フランスの首都を尋ねることと、ニューヨークからパリまでの今日一番安い航空料金を尋ねることの間には大きな違いがある。さらに難しい質問が、次の休暇ではどこに行くべきか、というものだ。これもキラーアプリケーションになるだろうが、実現されるとは考えにくい。
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