世界市場と同じ比率で売っていく――世界市場にゲームで挑み続けるカプコン - (page 2)

――Xbox 360とPS3の今後はどう見ますか。

 Xbox 360は、この年末がハードの売り上げを伸ばせるいいチャンスだと思います。Xbox 360とPS3はよく比較されがちですが、それぞれ違う特性を秘めている。その特性を押し出せばこの年末年始は可能性があると感じています。

 PS3については、我々もハードに適合した良いソフトを提供していくつもりです。これがあるからハードを買ってもいいかなあ、とユーザーに思ってもらえるソフトを提供できればと。開発もそのレベルの出来栄えになるモノを作っています。

――「モンスターハンター3」をPS3ではなくWiiで発売するというのは衝撃的でした。PS3についてある種のユーザーセグメントの評価があったのかな、とちょっとうがった見方もしてしまうのですが。

モンスターハンター 3 当初PS3で発表されていた「モンスターハンター3」は、Wiiでリリースされる。

 カプコンのソフトの作り方は、やはり「まず企画ありき」なんです。面白い企画が先にある。その企画が対象とするユーザーがいて、その次にハードを選定する。モンスターハンター3についても、「まず新たな遊びを追加する、それにはどのハードがいいか……Wiiだ」ということで選定したんです。モンスターハンターはアクションゲームですから、コントローラでいろいろ楽しめます。「モンスターハンター」の企画を広げるにはぴったりだったわけですね。

――現世代機のネットワーク対応についても伺います。まずソフトの流通に関してですが、任天堂が「Wiiウェア」を発表し、プラットホームが全機種ネットワーク対応となったわけですが、これに対する取り組みは。

 米国ではかなり一般的だと思います。が、日本はどうしてもパッケージで買ってくるという文化がある。それでもiTunes Storeのように、今まで考えられなかったような販売形態が出てきて、それが日本でも主流になりつつあるです。臨界点を超えれば日本でもこうしたダウンロードビジネスの可能性はあると思います。

 ゲーム以外のコンテンツ、たとえば映像にしろ音楽にしろ、もう直接物理メディアから見る、聞くなんてことはなかなかしてないじゃないですか。放送だって、ハードディスクレコーダで録って見る。見るだけの番組をDVD-Rに直接録画しないでしょう(笑)。コンテンツ全般がハードディスクなどのストレージベースへ指向しています。ゲームも将来はこの方向になると思うんですけどね。

――もうひとつ、ネットワーク対応で注目されるのはマッチング(対戦、協力プレイなど)です。カプコンは古くからKDDIと協業するなど、ノウハウをかなり持っていると思います。

 マッチングももちろんですが、先ほどのダウンロードビジネスも含めたオンライン機能は必須になるでしょう。もちろんすべてのゲームに付ければいいということではないですよ。ただ、オンライン機能はゲームの付加価値として重要なものになる。開発はこうしたことをふまえてゲームの企画をしていかなければならない。カプコンはその点に早くから気がついていたので、KDDIと共同で「マルチマッチングBB」をやりました。

 ただ、現世代機はそれぞれ、各ゲーム機メーカーが見ている方向が微妙に違う。それを見定めた上で進めていかないと、とは思います。現世代機のハード戦争において明暗を分けるのは、このネットワーク対応についての取り組み方かもしれないですね。

――これに関連して気になっているのが、ネットワーク対応をしたときの企業的コストの増大についてです。

 確かにゲームを開発するコストよりネットワークサービスを維持するコストのほうがかかるとは思います。しかも、これは基本的にずっと続けていく性質のものですから、どのくらいのコスト増になるかと言われれば計り知れない。パッケージビジネスのように人月で計算できませんから。

カプコン 代表取締役社長 辻本春弘氏

 これに加え、加入者の人数から割り出されるサーバや運営のコストが発生する。さらにある一定期間でアップデートも行うため、追加開発のコストも生じます。一つのオンラインタイトルを立ち上げたときは、できるだけ長いこと遊んでいただきたいわけですから、1年とはいわず、2年、3年とこうした費用は継続して発生する。やはり本体開発よりコストはかかります。

 そこで、どのタイトルをネットワーク対応にするか、どれをパッケージ売りきりのタイトルにするか、という戦略的な取捨選択が必要となるわけです。やっぱりすべてがネットワーク対応というのは難しい。他を見ても、iPodが出たからもうCDは用済み、という世界にはなってないですよね。ネットワークというのは、ゲームの作り手たちにとって現れた新しい環境です。この環境に適合したビジネスを考えていかないとならない。これもゲームの多様化にいかに対応していくか、というゲーム屋への課題だと思います。

 その際問題なのは、どうやって経験値を積むかなんです。カプコンにはたまたま「モンスターハンター」という、オンラインゲームに適合したタイトルがあったからうまく経験値を積めている。たとえば1万人しか集まらないゲームと10万人以上集まるゲームでは、経験の仕方って全然違うんですよ。やるべきことも違う。「モンスターハンターフロンティア」は、もちろん収益も重要なんですが、多くの方に遊んでいただいている経験というのが一番大きいと思うんです。これは今後のカプコンのタイトルに流用されていくはずです。

――国内市場以外についても伺います。「デッドライジング」「ロストプラネット 〜エクストリームコンディション〜」など、カプコンは北米市場で大成功したタイトルがありますね。近年の日本のソフトメーカーとしては珍しいですね。

 過去を振り返ってみると、業務用ゲーム機全盛期、ファミコン、スーパーファミコン、PlayStationくらいまで、日本のソフトメーカーが常に優勢だったんですよ。今の日本のソフトメーカーはどこかで間違えた道に迷い込んでるんではないでしょうか。カプコンは過去にそうであった戦略をそのまま継続しているだけなんですよ。

――どこに問題があったと考えますか。

 元々日本のソフトメーカーは、ゲーム機メーカーのほとんどが日本にあったため、いち早く開発を開始できるという優位性がありました。ゲームビジネス自体も日本の立ち上がりが早かったんです。その状況を北米、ヨーロッパのソフトメーカーは追いかけていた。つまり、日本のソフトメーカーは先駆者利益を得ていたわけです。

 しかし北米や欧州のソフトメーカーも経験を積んできた。海外市場は彼らがネイティブなわけですから、自分たちの市場に特化した作品を作りやすい。そうした作品が欧米市場に受け入れられるのは、当たり前のことですよね。

 それに対して日本のソフト販売会社や開発会社は、海外市場の文化を徹底的に分析して適合していかなければ成功しない。ネイティブではないわけですから。それに、欧米で受け入れられるものは、日本で受け入れられないこともある。海外市場を優先するなら日本の市場を捨てるくらいの覚悟が必要かもしれません。

 カプコンは数年前から「海外地域戦略は重点施策の一つ」と言ってきました。カプコンの各市場売上構成比は、世界の市場構成比に準ずるものにしていこうと行動してきたんです。

 もちろん日本の市場は大切です。しかし欧米に伸びしろがあるんなら、そこに対してリソースを投入する。その結果生まれた作品が日本で成功しなくてもいいんです。そういう戦略をとってきたのが、今の結果につながってるんだと思います。

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