仮想世界は新たな「学びの場」か--子供への影響を専門家が議論

文:Stefanie Olsen(CNET News.com) 翻訳校正:矢倉美登里、中村智恵子、緒方亮、長谷睦2008年01月03日 08時00分

 仮想世界に活発に参加している子供たちは、そこで人とのつきあい方を学び、技術の賢い使い方を学び、さらには小さいながらも優れた消費者になる方法を学んでいる。

 仮想世界が子供に与える影響を議論するため、米国時間2007年11月14日に南カリフォルニア大学(USC)に集まった学者と研究者は、以上のような見方を示した。もちろん、仮想世界はまだ始まったばかりで、研究者は十分な時間をかけて子供への影響を調査したわけではない。それでも、今回のパネルディスカッションを共同で主催したMacArthur Foundationは、こうした問題を扱う研究に対し今後数年をかけて何千万ドルという資金を出す計画を打ち出している。

 USCのAnnenberg Center for Communicationの准教授、Doug Thomas氏はディスカッションの中で、仮想世界で起きることの多くから子供たちは知らず知らずのうちにさまざまなことを学んでいると指摘した。多くの場合、子供たちはテクノロジに関する早期教育を受け、社会の構成員になる方法を学び、将来働く時に必要になるスキルを習得しているという。

 一方、マイナス面として、Thomas氏は「Club Penguin」や「Webkinz」といった仮想世界が本質的に営利目的であることを挙げた。こうした仮想世界は、ゲームで遊んだり、オンラインのキャラクターをドレスアップしたり、仮想のグッズを購入して仮想世界内の家やアバターを飾りつけることを、子供たちに奨励している。

 Thomas氏は「親に助言するなら、私は子供を食い物にするオンライン犯罪者や暴力といったことよりも、(仮想世界において)消費と大量消費礼賛と市民としての地位が融合していることのほうを心配する。なぜなら、子供たちは、この世界でよき市民であるには適切なものを購入しなければならないと教えこまれることになるからだ」とディスカッションで語り、その模様はインターネットを通じて映像でライブ配信された。

 集まったパネリストたちは、仮想世界に期待する点と気をつけるべき点について、教育およびビジネスの視点から話をした。Club PenguinやWebkinzといった仮想ゲームは、この2年間、6才から14才の子供たちの間でさらに人気が高まっており、大量の登録メンバーを獲得している。2012年にはインターネットを利用する子供の半数以上がこうした環境に参加するという研究者の予測もある。これは現在仮想世界に参加している人の数の2倍にあたる。

仮想世界の教育的価値

 一方で、多くの教育専門家は教育に役立つ可能性を評価し、仮想世界を歓迎した。仮想世界には子供を引きつけ、没入させる力があるからだ。例えば、Thomas氏はフランケンシュタインの物語を題材にした「Modern Prometheus」という教育用の仮想世界を子供たちに対して使っている。Thomas氏によると、Modern Prometheusは倫理など、授業で指導するのが難しいテーマを子供たちに教えるのに役立つという。Modern Prometheusはゲームの形式を取っており、倫理上のさまざまな問題を判断する場面が登場するシナリオを、違った視点から何度もプレイすることで、判断がもたらすさまざまな影響を確かめられるとThomas氏は話している。

 MacArthur Foundationで米国内向けの助成を担当するバイスプレジデントのJulia Stasch氏は、現時点で米国人の大半は仮想世界について耳にしたことさえないが、こうした状況も変わりつつあると話した。現在の子供たちは小さなころからデジタル世界に接して育つ初の世代で、子供たち自身の声にすべての人が注意を払っていく必要があるとStasch氏は話す。

 「重大な変化が起きているのか否か、そうした変化がどんなかたちを取りつつあるのか、その実態を把握するには綿密な調査が必要だ。変化が起きていれば、学校や図書館から家庭、経済、さらには民主主義にまでかなりの影響があるはずだ」(Stasch氏)

 カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)大学院(教育情報研究科)の准教授であるYasmin Kafai氏は、教育的要素が盛り込まれた仮想世界「Whyville.net」を使い、7歳から12歳くらいまでの子供の研究を行っている。Kafai氏は、子供たちが仮想世界に惹きつけられるのは、大人の目がなく、また、例えばロサンゼルスのような広大な地域に友人が散らばっている場合でも、遠くに住む友人と共通の場所で集えるからだと指摘した。

 「自立を求める10代の若者の場合は特にこの傾向が強い。(仮想世界は)気軽な付き合いを楽しんだり人と知り合いになる機会が多く、後に経験する現実世界での人間関係を試す(遊び)場になっている」(Kafai氏)

 Thomas氏は、子供たちの大半が地図上のイラクの場所を知らないと聞いて仰天した、というエピソードを紹介した。ただし、インターネットであらゆる種類のイラクの地図を探しだす方法ならば、子供たちは知っているだろうとThomas氏は言う。

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