携帯電話で3D画像を動かすためのミドルウェアを開発、提供をしているエイチアイが4月12日、ジャスダック証券取引所に上場した。同社のミドルウェア「MascotCapsule」は国内の主要キャリアだけでなく海外の端末メーカーにも採用されており、搭載端末は全世界で2億台を超える。
1989年の創業から19年目を迎えたこのタイミングで上場した意図とは何なのか。株式上場までの道のり、そして今後の事業戦略を代表取締役社長の川端一生氏に聞いた。
実は5年前から意識はしていました。当初は2005年に上場を予定していたのですが、赤字を出してしまって上場は見送り。いわば「浪人」してしまったわけです(笑)。赤字の原因は、海外展開に力を入れ始め、採用されるかわからないのにMascotCapsuleで動かせるコンテンツを自社の費用で大量に作ってしまったことでした。結局、この期にほとんど売上があがらず、その期は先行投資で終わってしまいました。また、企業のシステムエンジニアを対象に行っていたセミナー事業をやめたため、売上が落ち込んでしまいました。
それから、当社は受託開発から始まった会社で、それまで会計処理が受託型だったんですね。3Dエンジンの開発費もずっと資産として計上していたんです。ただ、その頃にはライセンス収入が中心になっていましたので、見込み型の処理に変えようということで、研究開発費用として処理するようにしました。当時1億7000万円くらい償却しています。おかげでバランスシートが軽くなり、利益が出やすい体質に変わりました。その結果、今年の4月に上場を実現させることができました。
社歴も長く、このままでも十分やっていける状況なので、社会的信用度としての上場は必要ありません。しかし、ここから次の一手を打つため、もっと面白いことをやるために必要でした。
上場の一番の目的は、人材獲得です。私は社員を中途採用する際、どこでエイチアイという会社を知ったか質問しているのですが、転職サイトなどで本気で転職先を探しはじめるまでエイチアイを知らなかった人がほとんどでした。つまり、転職を考える前の潜在的な時期の知名度は低いわけです。この面接時の質問によって、優れた人材を獲得するために会社の知名度を上げることが必要だと実感しました。
もう1つの狙いは資金調達です。これまでは私個人の保証で融資を受けていたのですが、今後の事業拡大のためにはエイチアイが率先してコンテンツ市場を作っていく必要性も出てくるでしょう。そのための資金調達は、個人保証では無理があります。
この先、エイチアイならではのサービス、製品で消費者にリーチしていきたいという思いが全社的にあります。上場していると知名度が上がりますし、ジャスダックの審査を通ったクリーンで安心できる会社だというアピールにもになります。
長い社歴の中で培ってきた暗黙知も多くあります。それを明文化し、ルールができているか、会議の議事録は取っているかなど、確認していくのが大変でした。上場を見据えて準備をしながら会社を運営している場合は楽かもしれませんが、社歴が長い会社の方が苦労する点は多いですね。
上場前に機関投資家まわり(ロードショー)を行い、午前9時前にディーリングルームに向かいました。取引の模様が映る大きなディスプレイに初値が表示されたとき、同行した幹部は喜んでいました。私は初値が付いたあと、取引によってめまぐるしく数値が変わっていくのを見て、経済メカニズムの一部に取り込まれてしまったなという感触を持ちました。このとき、経営を真摯にやらなければという意識を改めて強く持ちました。
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