確かに日本のケータイ文化は他国にあまり見られない、多機能マルチメディア端末を前提に成立してきた。高性能カメラやカラー液晶、Hi-Fiサウンド、電子マネー、GPSなどは世界に先駆けて実装されてきており、お隣の韓国を除いては、これらの機能を前提としたサービスが提供されている国は少ない。
そのため、海外在住者の中には、国内利用を前提に販売されているがそのまま海外に持ち出しても利用可能な端末を、海外キャリアが提供するSIMカード(電話番号やその認証情報など加入者情報を記録したICチップ)を入れても使えるようにする「SIMロック解除」というグレーな措置を行ってまで日本のキャリアの端末を求める人もいる。その気持ちはわからないでもない。
しかし、このSIMロックがなされているのも、日本の携帯電話産業の垂直統合性(携帯電話会社がメーカーから端末を買い取り、それを契約者に原価よりも安く販売し、利用料金で補填すること。また、コンテンツを公式サイトの中に囲い込み、その料金の回収代行などを行うこと)のなせる業だ。垂直統合の仕組みは高い収益率の維持と他業種からの侵略を排除するためのメカニズムとして機能してきた。
前述のように、海外メーカー製品がラインナップに加わるために、海外で流通するものとは異なるものの日本では一般的な仕様を取り込むことを求められる傾向は強まるだろう。とはいえ、それがどの程度まで達成されるかはわからない。結果、これまでの日本のケータイビジネスにおける高い収益性を実現する前提となる垂直統合性を損うきっかけになる可能性が生じる。
また、海外メーカー製品の問題とは別に、端末の高性能化の一端ですでにフルブラウザという禁断の扉がすでに開きつつある。フルブラウザ利用時の料金設定に違いを設けるなど、できる限り既存の垂直統合性から派生した料金プランの維持を狙ってはいるものの、すでに勝手サイトと呼ばれる公式コンテンツとは異なるサイトの利用へユーザーの嗜好の中心が移っている現在、どこまで歯止めとして機能するかどうかは怪しいだろう。
ソフトバンクモバイルがYahoo!ケータイを標準にしたこと、あるいはauがGoogleを標準検索エンジンとして採用したり、ドコモが複数のインターネット検索サービスを取り込んだりしたことも、フルブラウザの禁断の扉とつながって、その扉を開けようとする慣性に加速をつけている。
いずれにしても、これらはたとえ携帯電話産業の垂直統合性全体を損なわないとしても、iモード開始以来隆盛したコンテンツプロバイダという、ケータイ産業生態系を形成する数多くの事業者の没落を招く。そして高い収益性を確保するためのもうひとつの前提であった従量制を壊す定額制の導入はもうすでに進行しつつあり、その終局では携帯電話事業者の収益を大きく損なうというパンドラの箱を開けることにつながるだろう。
そのために、ケータイキャリアはICチップを利用した電子マネーやカードサービスなどの導入を促進させているものの、それらは基本的にケータイ電話そのものに還元されうる訴求価値である限り、その効力はあまりないだろう。
新規の端末の機種数や、機能の高性能化による競争はそろそろ終わりにしてもいいのではないか。より現実の世界と仮想の世界を、(公式とか勝手とかにかかわらず)つなぐことによる価値を提供することにシフトすることを真剣に考えること。それがあまり長くはないもののケータイの歴史の中で澱として蓄積されてきたさまざまな課題=パンドラの箱をうまく対処する唯一の選択肢ではないだろうか。
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