かつて、電脳隊という会社があった。1996年に5人の学生によって設立された会社で、モバイルのコンテンツ、アプリケーション、ソリューションを提供していた。電脳隊は、自らが創設した子会社であるピー・アイ・エムと2000年に合併。そのピー・アイ・エムはヤフーがほどなく買収し、電脳隊やピー・アイ・エムのコンテンツはYahoo! モバイル内で提供されることになった。
ヤフーへの売却により、電脳隊の創業社長だった田中祐介氏はベンチャー企業の経営者としてひとつの「区切り」を迎えた。
しかし田中氏は、2000年6月に新会社であるフラクタリストを設立(当時はフラクタルコミュニケーションズ)、現在はネットワーク機器のミドルウェアである「NomadicNode」の提供をはじめとして、モバイルなどネットワーク関連の事業を幅広く展開している。そしてその範囲は、日本国内だけではなく、中国、北米と国境をまたいだものとなっている。
そのフラクタリストは10月11日、名古屋証券取引所セントレックスに上場した。ここで資金を調達した意図はどこにあったのだろうか。また、田中氏の10年にわたるベンチャー企業での活動を支えているものは何なのだろうか。
当社は、インターネットの利便性をできるだけ高めるということを理念に事業を展開してきました。現在の大きな事業の柱は2つあります。携帯電話を利用したサービスを提供する企業をサポートするモバイル事業、そしてインターネットを経由して情報端末を連携させるための要素技術を提供するNomadicNode事業です。今回得た資金は、主にNomadicNode事業に投資します。
NomadicNodeは、インターネットを介して情報機器をほかの機器と連携させるためのミドルウェアです。これを情報機器に組み込むと、プライベートIPアドレスしか割り振られていない情報機器でも、外部ネットワークから安全に接続して遠隔操作したり、コンテンツを引き出したりということが容易にできるようになります。当社はミドルウェアを提供する企業ですので、NomadicNodeを組み込んだ機器そのものは、機器を開発する各社からの販売ということになります。
今使われている具体例を言えば、一番分かりやすいのが監視カメラですね。携帯電話からIPビデオカメラの映像を見るといった用途で使われています。また、業務用のIP電話でも使われていますね。IP-PBX(IP電話の企業内の交換機器)の導入にあたって、既存のネットワーク資源をそのまま有効に使いたいといった企業に興味を持ってもらっています。
ええ、PC関連機器やネット家電、IP電話などが代表的です。
まず、NomadicNodeを搭載する一般消費者向けのPC関連機器は、年末から年明けには市場に出てくる予定です。メーカーに働きかけており、いま開発が進んでいるところですね。
ネット家電のコンセプトを打ち出している企業にも、打診を続けています。私たちは「NAT越え問題」と呼んでいるのですが、現行のインターネットの仕組み上、外部からプライベートIPアドレスを持つ機器にはアクセスが非常にしにくい。この問題を解決できる仕組みとして、家電メーカーにNomadicNodeを検証してもらえるように働きかけています。
ネット家電にNomadicNodeが搭載されると、例えばHDDレコーダーであれば、携帯電話からHDDレコーダーを操作したり、撮りためておいたコンテンツを閲覧できたりします。
NomadicNodeのネット家電展開には、2つの段階があると考えています。
家電メーカーは1年半後をにらんで新製品を開発しています。ですから、今の時点で研究開発に使ってもらっても、市場に出てくるにはそれなりの時間がかかります。一方、ルータに搭載するのは簡単です。そしてNomadicNode搭載ルータに繋がったネット家電はすべて、外部ネットワークから扱えるようになります。
ですから、まずはルータへの搭載を進め、その後家電製品にも組み込む形になるでしょう。後者の段階になるとNAT越え問題は自動的に解決しているということになります。
特殊なのがIP電話ですね。特に持ち歩けるタイプのIP電話に関しては、自宅や公衆無線LANスポット、友人の家など、さまざまなところで使われる可能性があります。場所ごとにネットワークの設定をするのは大変ですから、IP電話の機能をフルに使うためにはNomadicNodeの機能が必要になると考えています。
そこで、インテルのチップ上で支援を受けながら、 NomadicNode搭載の無線LAN搭載電話端末のレファレンスデザインを作りました。次は、このレファレンスデザインを携帯電話端末メーカーに利用してもらえるよう働きかける局面になると思います。携帯電話網と無線LANとのデュアル端末を作るときに、このレファレンスデザインを使用してもらえると良いなと考えています。
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