USEN宇野社長が抱くコンテンツへの飽くなき渇望 - (page 2)

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すっぽり抜け落ちたサービス

 USENの現在の売上高は、有線放送とカラオケ、FTTHという三本柱によって成り立っている。そして収益が安定していくのとともに、康秀氏は再びコンテンツビジネスに乗り出していくことになる。そしてこの記事の冒頭に紹介した発言へとつながっていくのである。確かに彼の言葉はロジックとしては正しく、「インフラから利活用へ」というのは政府のe-Japan戦略で言われているのと同じネットの道筋ではあるのだが、しかしもう少し邪推すれば、康秀氏には「コンテンツビジネスへの飽くなき渇望」のごときものがあるように思えてならない。

 彼がギャガやエイベックスに出資したことについて、彼と親しいあるベンチャー経営者は「まあ少しは趣味が入ってるんじゃないですかね」と苦笑しながら語っている。クラブ「ageHa」への出資や、あるいは個人でフリーペーパービジネスに出資するなど、ややサブカルチャー的な小口のビジネスもいくつか手がけている。ソフトバンクの孫正義社長が、割り切ってひたすら通信インフラビジネスに精を出しているのと比べれば、康秀氏の「カルチャー好き」は相当なものに思える。

 しかし動機がどうあれ、USENはコンテンツビジネスに社運を賭けて乗り出そうとしている。かつてのような垂直統合モデルではなく、FTTHという通信インフラとは一応は切り離した形でのコンテンツビジネス戦略である。

 同社はギャガとエイベックス(かなり出資比率は下げているが)を持ち、さらに会員数が800万人に達しているGyaOという無料テレビ放送サービスも擁している。その一方で、FTTHという強力な通信インフラも持っている。ところが、ポートフォリオとしてそれらのサービスを組み合わせてみると、だれもが気づくことがある。コンテンツビジネスと通信インフラの間を埋めるべきレイヤーがすっぽりと抜け落ちてしまっているのだ。

 そしてそのポートフォリオの欠落を埋めるものこそが、ライブドアのポータルサイトに他ならない。ギャガやエイベックスはリアルビジネスでは巨額の収益を上げているが、ブロードバンドコンテンツとしてはまだ集客を得られるまでには育っていない。また、GyaOは広告付き無料放送という目新しい手法が功を奏して会員数を集めているとはいえ、ギャガやエイベックスを巻き込んだ総合コンテンツサイトとなっていくのには力不足である。やはりポータルが必要なのだ。

誰もが避けた道を選んだ思惑

 とはいえ、通常の感覚であればライブドアという会社を買収するのはリスクが高すぎる。ライブドアは2005年の年末段階で618億円という現預金を持ってはいるものの、フジテレビや個人投資家たちから巨額の損害賠償を起こされるリスクを抱えており、それらの金融資産はあっという間に吹っ飛びかねない。

 またライブドアの売上高のかなりの部分を占めているライブドア証券は、ライブドア本体の法人としての証券取引法違反が確定すれば、子会社でいられなくなる。証券取引法では、罰金刑以上を受けた会社が証券会社の株式を20%保有することを禁止しているからだ。またライブドアポータルから、大手広告主が次々と広告を撤退させていることも大きな痛手となっている。こうした状況だけを見れば、再建はほとんど絶望的にも見える。

 しかし、これらはいずれも短期的なリスクである。長期的に見れば、ライブドアポータルの潜在的な収益力はかなり高い。前にもCNETの記事で書いたが、ライブドア幹部のひとりはこう話している。「ポータルなどのB2C事業では、顧客に対する価値の提供と代価がイコールにならない。無料サービスがある程度は求められている以上、価値を認められてページビューが向上しても、決して収益には結びつかない。なんとかして顧客を集め、集まった段階で少しずつ黒字化していこうという戦術を立てることになるが、これはある意味でかなり自転車操業になる」

 2004年から2005年にかけてスタートしたライブドアのポータルビジネス(メディア事業)は、なかなか離陸しなかった。同社の決算上では黒字を出していることになっているが、実際には赤字が続いていることを指摘する社内関係者もいる。しかし、そうやってコストを投じてライブドアポータルはさまざまなサービスやコンテンツをそろえ、少しずつ地力を付けてきた。中には「インスパイア系」と揶揄される他社サービス丸写しのコンテンツもあるが、しかし質的にも量的にも、ヤフーや楽天に匹敵するポータルになってきていることは否定はできない。

 それは言い方を変えれば、ライブドアポータルがそろそろ「収穫時期」に入ってきているということでもある。広告主の離反などで苦況に陥ってはいるが、コンテンツの充実度やページビューの大きさを見れば、その可能性は決して小さくない。

 おそらく宇野康秀氏は、そのあたりの可能性をにらんだうえで積極的な業務提携、出資へと踏み込もうとしているのだろう。

リスクをポジティブに捉える計算

 彼のリスクの取り方は、独特である。エイベックスにしろギャガにしろ、そして今回のライブドアにしろ、買収話を持ちかけられた他の企業は二の足を踏んだ。短期的に見れば、どの企業も「爆弾」を抱え、きわめて危険性が高い投資に思われたからだ。しかし宇野社長は、そのリスクをポジティブに捉えた。

 その背景には、有線放送やカラオケ、FTTHといった収益の上がる実ビジネスを擁している強みももちろんあるが、それ以上に彼が独特のリスクの取り方――短期的ではなく、きわめて長期的なリスク計算をする人物であるということが、色濃く反映しているように思われる。

 そのリスク計算が本当に正しかったのかどうかは、両社の今後の業務提携がどう進み、どうシナジー効果が現れていくかにかかっていると言える。もちろんUSEN側のデューデリジェンスの結果、提携は白紙に戻ってしまう可能性はゼロではないし、シナジー効果にしても本当に効果が出て売上に反映されていくまでにはまだかなりの時間がかかるはずだ。今後に期待したい。

筆者プロフィール
佐々木俊尚
毎日新聞社会部記者として警視庁捜査一課、遊軍などを担当し、殺人事件や海外テロ、コンピュータ犯罪などを取材。その後、アスキーなどを経て現在はフリージャーナリスト活躍。著書に「ヒルズな人たち―IT業界ビックリ紳士録」、「ライブドア資本論」などがある。

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