通信と放送の融合へ、いま政府がなすべきこと - (page 2)

今必要な議論とは

 そのため、「NHKのどの部分を民営化するか」などの直接に仔細な議論に立ち入ることよりも、そもそも機能しなくなってきている仕組み自体の見直しと、それが最初に取り扱うべき内容の大づかみな規定を行うことが重要になる。すなわち、放送通信領域の議論の仕方そのものについて言及し、その土俵自体を変えることに大きな意義がある。

 であらば、当然のことながら国有放送であるNHK、特殊会社であるNTTに関する議論自体のあり方を頭ひとつ高いところから規定する必要があろう。すなわち、国有放送の新しい定義やその費用の確保の仕方、放送・通信のユニバーサルサービスの範囲やその適用先の見直しなどだろう。その点において、竹中懇は着実に議論を進めている。

 加えて、僕が望むべきものとしては、制度のあり方自体を規定する政府の仕組み自体の議論だ。すなわち、メディア、コンテンツ、放送、情報通信といった領域の監督省庁のあり方なのだ。

「規制」と「振興」の分離へ

 日本では、金融も含め、産業に対する「規制」と「振興」という相反する政府の機能をひとつの省庁が担っている場合が多い。あるいは、ひとつの産業を複数の省庁が明確な領域区分がないままに担当することもある。

 典型が、放送に関するものだ。総務省は、放送免許の付与という「規制」の側面と、その産業「振興」の双方を担っている。また、放送の内容的な定義に著作権という点で文化庁が関わるため、一貫した「規制」と「振興」すら困難になっている。そのため、本来、技術進展に従って柔軟に改革されるべき領域への着手が遅れ、事業当事者の危機感醸成も遅れるという、負のスパイラルが生じている。

 であれば、議論すべき領域自体を整理するためにも、欧米先進国のように「規制」と「振興」を異なる政府機能に分化するべき、という議論を竹中懇が行うのは妥当な線ではないか。すなわち、既存官庁を「振興」と役割つけるのであれば、「規制」を行う米国のFCC(連邦通信委員会)や英国のOfCom(通信省)のような存在を設定し、その対峙からCOBIT(Control Objectives for Information and related Technology:ITガバナンスに関するガイドライン)でいう「最適化されている」状況を常に作り出すダイナミックな関係を生み出してはどうかという発想だ。

 この議題は、外部の関係者を巻き込まないだけに、いったん始まればスムースなインプリメント(導入)が可能なのではないか。また、多くの課題がガバナンスの障害から発生しているNHKなどに対して、その経営監視機能を「規制」官庁が担うことが短期的な問題解決につながる可能性もある。

 3月という年度末を迎え、数多くの政府委員会や研究会が作業を終了しようとする現在、年度の枠を超えて6月まで活動する竹中懇であっても、残すこと3回の議論の機会しかない。そこで、詳細かつ具体的な施策が放送通信という大きな領域に対して出てくることを期待しないほうがいいだろう。であれば、冒頭述べた知的財産戦略本部の提言にあるようなゴールに向かって確実な路線を引く選択を行ってもらえればと思う。

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