日米で異なる映像配信ビジネスモデルの行方

 新年早々に開催された2006 International CESで、GoogleのLarry Pageはすでに試験開設されているGoogle Videoに米4大ネットワークテレビ局の1つであるCBSの番組などを有料配信するGoogle Video Storeを追加すると発表した。一方で、日本ではUSENのGyaO、ソフトバンクとヤフーが合弁で設立したTVバンクは広告ビジネスモデルを採用している。日米のリーディングプレイヤーはなぜ異なるビジネスモデルを採用したのだろうか。

日本で順調に成長するブロードバンド映像視聴市場

 昨年は、春にスタート以来500万人以上の会員を獲得したUSENのGyaOの登場。それに対抗して年末にソフトバンクとヤフーがTVバンクを設立し、Yahoo!動画としてサービスを開始。加えて、放送関連の動きとしてIPマルチキャストを利用したデジタル地上波テレビの再送信などが総務省の情報通信審議会で答申され、キー局の多くがネット上での自社過去番組の配信サービスを立ち上げることを発表(日本テレビやフジテレビなど一部ではすでにサービスを開始:第2日本テレビフジテレビ On Demand)するなどネット映像配信元年とも言える様相を見せた。

 背景には、ブロードバンドの加入者数が昨年9月末で約2143万契約に達し(総務省情報通信統計データベースより)、ブロードバンドがインフラとしてのカバー率という点で十分にマスといえる規模に達したことがあるだろう。結果、規模をベースにした広告ビジネスも順調に成長している。電通総研の予測によればインターネット広告費は2005年で2722億円(モバイル広告300億円を含む)に達し、総広告費の5%程度を占めるまでになるとされている。

手痛い経験を背景に広告ビジネスに向かう

 ようやくここまで来たか、と感慨に近い印象を持つのは僕だけではないだろう。

 過去にもフジテレビ、TBS、テレビ朝日らが映像配信サービス事業会社「トレソーラ」を共同設立し、2002年9月の「Chance@トレソーラ」や2004年2月の「BBエンタメキング・トレソーラ」といった大々的なキャンペーンを伴うインターネットでのテレビ番組配信サービスを試みたが、様々な理由から苦杯を嘗めた。

 他方、アニメや特撮ものなど、ターゲットを絞った有料コンテンツ配信サービスはある程度の成功を収め、その統計などは明らかになっていないもののアダルトコンテンツの配信などはかなりの市場規模になっていると推定される。しかしながら、基本的には過去アーカイブ作品の有料配信を中心としたインターネット映像配信事業は、決してポピュラーなものとはなれなかったという印象を覆すことはできないだろう。

 インフラの普及状況や著作権処理問題が障壁とされている(政府機関などの後押しによってかなりの改善が図られたが)。また、映像関連産業の商慣習やネットに対する心情的な反発などの目に見えない課題は、ライブドアや楽天などのキー局買収などの試みを経て、結果的に縮小化してはいるものの依然として根強い。

 であれば、電通と民放5社が発表(関連記事)したネット映像配信会社構想や前述の情報通信審議会が答申したマルチキャストによる同時再送信のように、テレビ放送という最も大きな映像ソースのメカニズムをそのままインターネットの上にコピー&ペーストしてしまったほうが簡単だという発想が出てきてもおかしくない。すなわち、あらゆる意味で受け入れやすいであろうマスメディア型広告ベースのビジネスモデルをインターネットにおける映像配信にも適用してしまえ、というアイデアだ。  このアイデアを最初に実施したのは、テレビ局ではなくUSENのGyaOであり、TVバンクだった。そして、両社は、独自にスタートしたキー局の試みを尻目に、順調に成長してきている。

ロングテールでブレークスルーを目指すGoogle

 元々は家電製品の見本市だったInternational Consumer Electronics Show(CES)は、最近ITやインターネット系企業の新しいサービスの発表の場と化している。  今年も、日本勢が高精細度の映像関連機器を多数出品したのに対して、その存在感を翳らせるほどにYahoo! GoやIntel Viivなどの新たな映像利用環境やサービスの新提案が目白押しで登場した。そして、そこで最も注目を浴びたのが、Googleの動きだった。

 ブロードバンドの質や普及という点では日本に比べるレベルにない米国だが、日本ではあまり成功していない有料映像配信モデルをあえてGoogleが導入するというのは、米国のアナリストやジャーナリスト以上に日本の関係者には驚きとして映ったに違いない。また、CBSなど放送局、そしてその背後に控える映画メジャースタジオが、その支援に回っているのが奇異に見えただろう。

 少なくとも大手コンテンツプレイヤーがGoogleに与するのは、Googleが現在最も優れたインターネット業界のプレイヤーであり、かつて(現在はYahoo!の一部となった)Overtureと共に、インターネット広告の主流を露出保証型のバナー広告から成功報酬型の検索連動型モデルへと移行するのに成功させた立役者であるということが効いているに違いない。

 件のGoogleが依拠するのは、ロングテールという曲線=需要とその規模の分布のモデルで、左端の高く上に伸びる小数の検索クエリ(下図赤い部分)ではなく、永遠に長く続く無数の検索クエリ(青い部分)を全て取り扱うことで、実は圧倒的に(規模も単価も)大きな市場を取り込めるという発想であり、それはそのままテキストの検索クエリだけではなく、映像視聴の需要にも適用できるという仮説であろう。

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ロングテールのモデル図

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