NRIの北林氏は「米国と日本では環境が異なる。米国のように圧倒的なシェアを持つのは難しいのではないか」とみる。
その理由の1つが、対応ポータブルオーディオプレイヤーの普及状況の差だ。リサーチ会社である米NPD Groupの調査によれば、米国市場におけるiPodのシェアは82%と圧倒的な地位にある(関連記事)。これに比べて、日本では確かにトップの座にあるものの、同社のシェアは36%に過ぎない。
ソニーのネットワークウォークマンやディーアンドエムホールディングスのRioシリーズなど、iTunesに対応していないポータブルオーディオプレイヤーを使っているユーザーも日本では多いのだ。これらのユーザーはiTMSで楽曲を購入しても自分が持っているプレイヤーでは楽曲を再生できないため、iTMSを利用しない可能性が高い。
さらに日本では、すでに「着うたフル」という携帯電話向けの音楽配信サービスが成功しており、iTMSと競合する。国内で最初に着うたフルに対応したKDDIによれば、2004年11月19日にサービスを開始し、2005年6月15日には1000万ダウンロードを達成したという。パケット定額制を利用すればダウンロードにかかる通信料をさほど気にせず利用できるうえ、iTMSと違って携帯端末に直接楽曲をダウンロードできるため、外出先でも欲しいと思った楽曲をその場で買って楽しむことができる。
データベースにエラーが起きている点も、ユーザーに不安を与える要因になりうる。iTMSでは忌野清志郎などのアルバムの一部が50円で販売されるというエラーが起きていた(ただし8月19日時点で、50円で販売されていたアルバムはiTMS上から削除されており、購入はできない)。
そしてもう1つ、iTMSの邦楽のラインアップが少ない点もネックとなりそうだ。大手国内レコード会社のうち、サービス開始時点で楽曲を提供しているのはエイベックス ネットワーク、東芝EMI、ユニバーサル ミュージック、コロムビアミュージックエンタテインメント、ビーイング・ギザグループなどで、Moraやオリコンに比べて参加企業が少ない(表2)。
※3:エイベックス・エンタテインメントが楽曲提供
(出典:シード・プランニングのレポートをもとに編集部が調査)
(編集部注:8月22日、最新版に表を変更致しました)
つまり、売れ筋のビッグアーティストである浜崎あゆみ(エイベックス)や宇多田ヒカル(東芝EMI)、B'z(ビーイング)などの楽曲はダウンロードできるが、サザンオールスターズ(ビクターエンタテインメント)やORANGE RANGE(ソニー・ミュージック)、平井堅(デフスターレコーズ)などの楽曲はiTMSで試聴・購入することができないのだ。
iTMSへの対応はレコード会社によってかなりの温度差があるようだ。東芝EMIやワーナーミュージックジャパンはすでに親会社のEMI GroupやWarner Musicが欧米でiTMSに楽曲を提供していることから、日本版iTMSでも積極的に楽曲を提供すると話す。その一方で、ポニーキャニオンは「お互いの音楽配信に対する根本的な考え方が違う」と話しており、交渉には時間がかかるだろうとの見通しを示している。
他の配信事業者は、この点でiTMSとの差別化を図る考えだ。特にレーベルゲートはソニー・ミュージックなどのレコード会社18社が出資しており、邦楽の取扱いには優位な立場にある。「iTMSは洋楽に強いが、Moraは邦楽に強い。今後はさらに邦楽のラインアップを強化していく」(レーベルゲート)と意気込む。
レーベルゲートはさらに、配信事業者との連携を進めてiTMSへの対抗を図る。第一弾としてオリコンとの業務提携を8月18日に発表した。12月にも両社で新サービスを始める予定だ。レーベルゲートからみれば、楽曲を販売する窓口が増えて、楽曲配信数の伸びにつながる。一方、オリコンにとっては業務委託契約を結べていないソニー・ミュージックなどの楽曲が取り扱えるようになり、ラインアップの拡充につながる。レーベルゲートでは今後も大型サイトとの連携強化に努めるとしており、業界再編が起きる可能性もありそうだ。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス
「程よく明るい」照明がオフィスにもたらす
業務生産性の向上への意外な効果