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ついに日本の音楽業界に風穴を開けてくれたアップル - (page 2)

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iTMSが日本の音楽業界にもたらしたものとは

 カタログ、価格、DRMとすべての面でiTMSに劣る既存の音楽配信サービスは今後どうすればいいのだろうか。そのままサービスを継続したところで、ユーザーがiTMSを選ぶことは火を見るより明らかだ。やむにやまれずとでも言おうか、彼らもiTMSが発表された8月4日にiTMS対抗策を打ち出してきた。

 日本のメジャーレコード会社が合弁で設立したレーベルゲートが運営する国内最大の音楽配信サービス「Mora」(2000年にサービス開始)は、東芝EMI、エイベックス、コロムビアミュージックエンタテインメントなどの楽曲価格をiTMSと同じ150円または200円に値下げ。また、DRM制限という意味ではそれまでCD-R書き込みを認めていなかったエイベックス、コロムビアミュージックエンタテインメントなどの楽曲をCD-R書き込み可に変更した。

 Moraだけでなくレーベルゲートの別ブランド「MusicDrop」や、オリコンの「ORICON STYLE」、USENの「OnGen」、リッスンジャパンの「Listen Music Store」、エキサイトの「Excite Music Store」など国内主要音楽配信サービスの楽曲も8月4日前後に一律値下げした。

 これまで日本の音楽配信は基本的に価格もDRM水準もレコード会社が決定し、配信業者には一切の決定権がなかった。iTMSはこれをひっくり返した初めての例と言える。今後は「音楽配信のデファクトスタンダード」としてのiTMSが、音楽配信ビジネスのトレンドを作っていくのだろう。商品を卸す側からしてみれば、全然商品が買われないショップより、大量に商品が売れるショップの方を優遇するのは当然の話。消費者に支持されるという明快な事実はそれだけ意味があり、力を持っているのだ。

 実際にオープンしたiTMSを使ってみたが、1クリックで簡単に楽曲が購入でき、すぐにiPodに転送して音楽を聴けるシームレスな感覚はほかのどの音楽配信サービスにもないものだ。まだオープンしたばかりで検索機能に不具合があり(洋楽の一部の曲で、米国版iTMSに飛ばされたり、日本語検索がうまく働かなかったりすることがある)、楽曲のジャンル分けが完璧でない(なぜか安倍麻美が「ワールドミュージック」のジャンルに入っていたりする)といった問題は抱えているが、それはいずれ時間が解決してくれる話だろう。

 実際、アーティスト名や楽曲名で検索すると一瞬で楽曲リストが表示され、ダブルクリックで試聴でき、気に入ったものを1クリックで購入できるというこの快適さの前には、多少の不具合などどうでもいいという気持ちになる。一度この快適な環境に慣れてしまうと、なかなかここから抜け出せなくなってしまう人も多いのではないだろうか。

iTMSは日本で成功するか

 最後に日本版iTMSの今後をいくつか予想してみたい。まず、単純に気になるところでiTMSは日本で成功するかということだが、間違いなくこれは成功すると思う。もちろんどの程度で「成功」ととらえるかにもよるが、現在Moraの月間ダウンロード数が約45万曲(2005年6月現在。ちなみにiTMSは全世界における1日のダウンロード数が約150万曲だ)ということを考えると、間違いなくこれをはるかに上回る月間ダウンロード数は記録できるだろう(8月8日、アップルコンピュータは開始から4日間で販売曲数が100万曲を突破したと発表した。いかにiTMSを待望するユーザーが多かったか、この事実は明解に示している)。

 もちろん、日本の場合米国には存在しないCDレンタル制度があり、楽曲の権利処理が煩雑でカタログが増えにくい状況があるなど、いくつかネガティブな条件は考えられるが、これまで「お客さん」にできなかったMacユーザーを取り込める(日本の大手音楽配信サービスはすべてMacに非対応だった。Macユーザーはそもそもこういった音楽配信サービスのようなクリエイティビティの高い新しいネットサービスに敏感な層が多く、それらをごそっと独占的に刈り取れるのはアドバンテージが大きい)という点や、ほかの音楽配信サービスには存在しない4%という高い還元率のアフィリエイトサービス、前述した洋楽市場活性化の可能性など、ポジティブな条件もたくさん存在する。

 また、クレジットカード普及率が米国ほどではない日本でも、それを補うプリペイドカードシステム(大手量販店やAmazon.co.jpで購入可能)が用意されており、クレジットカードを所有できない中高生でも気軽に楽曲を買って楽しめるのは魅力だ。

 プリペイドカードは販促システムとしても有効で、米国では既にAppleとPepsiCoが共同で「Pepsiの飲料を購入すると楽曲をダウンロードできるコードが3本に1本の割合で付いてくる」というキャンペーンを行っており、これがユーザー数の拡大に大きく貢献したと言われている。日本ではサントリーが同社のウーロン茶を購入すると抽選でiPodが当たるキャンペーンを何度か実施しているが、今後はiPodではなく、このiTMSのプリペイド購入コードをオマケとして付ける可能性が高いのではないだろうか。いずれにせよ、これまでの音楽配信サービスでは考えられなかったさまざまな仕掛けが出てくるに違いない。

 もちろん、他社もこの状況にただ指をくわえて見ているわけにはいかないだろう。サービス面や価格、DRMだけでなく携帯デジタル音楽プレイヤーなどとの連動まで含めて、今後何らかの改良をしていくことは確実だ。結局日本という国は何らかの「外圧」がないと変われないのかと思うとちょっと寂しい部分もあるが、こんな素敵な外圧なら消費者的には諸手を挙げて大歓迎だったりもする。

 iTMSのおかげで日本の音楽配信はようやく本当の意味でのスタートラインに立てたのである。日本の音楽業界は音楽販売チャネルの可能性を大きく広げてくれたAppleに感謝こそすれ、恨む筋合いなんて一つもない。「iPodを私的録音補償金の対象にして、金を巻き上げろ」なんてケツの穴の小さいこと言ってないで、感謝状の一つでも贈ったらどうだろうか。

津田大介
1973年東京都生まれ。週刊誌、インターネット誌、ビジネス誌、音楽誌などを中心に幅広いジャンルで執筆。ここ数年はネットカルチャーやネットワーク時代の音楽の在り方について多くの原稿を寄稿。主な著書は日本の音楽業界が抱える問題点をさまざまな視点から分析し、論点をまとめた『だれが「音楽」を殺すのか?』(翔泳社刊)など。音楽配信を中心としたデジタルコンテンツ流通、著作権問題などの関連ニュースを集めた情報サイト「音楽配信メモ」も運営している。

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