PtoP有罪判決で期待されるPtoPビジネス利用の促進

米国最高裁判決は規定路線?

 6月27日に米最高裁判所で下されたファイル交換ソフトGroksterに対する判決が、各方面に波紋を広げている。特に、いわゆる1984年のソニー・ベータマックス訴訟の「著作権を侵害しない意義のある用途が求められている場合、技術は中立であり、著作物の侵害行為に寄与した責任を問わない」という判断からみると、今回の判決はその流れを逆流させるものだと悲観的に捉えられることが多い。極端な例では「ハイテク業界よ、さようなら」という反応を見せている人までいるようだ。

 ところが一部には、今回の判決が実は既定路線だったという見方がある。

 「どうやら米国は、事業者公認のPtoPネットワークをいくつか作ることで、アングラのPtoPネットワークを一気に違法認定しようと目論んでいるらしい」--そんな噂話をある大学講師に教えてもらったのは、2004年12月のことだった。ちょうどSONY BMG Music EntertainmentやUniversal Musicなどの大手音楽レーベルが、SNOCAPやPeer Impactなど著作権を管理できる新世代PtoPネットワーク事業者との提携を相次いで発表した時期だ。

 SNOCAPは、PtoP音楽ファイル交換の火付け役であるNapsterの生みの親、Shawn Fanningが始めたサービスで、著作権訴訟に耐えられなかったNapsterの反省を生かしているとして注目を集めている。また、Peer ImpactもSNOCAPと同様のコンセプトを武器に、いきなり複数の音楽レーベルと提携を発表して話題を呼んだ。

 ただ、今振り返ると、これらの事業者は当時矢継ぎ早に提携を発表したものの、半年経った今でもサービスの開始に至っていないケースや、ようやくベータを開始したばかりという状態で、2004年11月に発表だけ済ませたという印象もある。ちなみに、今回最高裁で判決が出たGroksterの裁判の前段にあたる控訴審は、2004年8月に行われていた。その頃から今回の最高裁の判決までに伏線が引かれていたと考えるのも、あながちおおげさではなさそうだ。

果たしてPtoP技術は消えるのか

 こうした政治絡みの噂話があふれる一方で、ビジネスの視点から注目されるのは、果たして今回の判決でPtoPという技術そのものが廃れてしまうのかどうかという点だろう。今回の判決を受けて、「PtoPは死んだ」と考える人も多いようだが、そこまで単純な話ではないだろう。

 そもそもこの議論が混乱を招く理由は、「PtoP」という言葉が2つのイメージを持っているためだ。この点をまず整理しておきたい。

 まずその1つは、IT技術者が抱くPtoPのイメージで、「端末間の通信から来る分散技術」というものだ。そして2つめは、一般の人が抱くイメージで、ファイル交換ソフトに代表されるように、企業や管理者がユーザーをコントロールできないアングラなイメージだ。日本においては、管理者が存在しないファイル交換ソフト「Winny」がPtoPアプリケーションの代表として認識されていたこともあり、PtoP=Winnyと考える人も多いが、あくまでも別物だ。

 つまりPtoPの分散技術という特徴だけを生かせば、管理者や事業者は著作権を完全にコントロールしてサービスの提供ができるわけで、冒頭に紹介したSNOCAPやPeer Impactなど、新世代のPtoPネットワーク事業者は、ほとんどこうしたアプローチを取っている。

 今回の裁判で違法・適法の判断がはっきりすれば、こうしたアプローチを取る事業者にとって判決がプラスに働くことになるかもしれない。実際、11月にSNOCAP等との提携を発表済みのSONY BMGは、今回の判決が逆に合法的なPtoP事業者にとってチャンスになるととらえているようだ。そもそも今回の裁判の対象となっているサービスと、自分たちのサービスは全く違うものだという自信の表れともとれる。

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