PtoP技術のビジネス化で先行する米国と遅れる日本
日本ではあまり知られていないが、実は米国においては、これからPtoP技術をビジネスにしようと模索する企業が増えているだけでなく、すでにPtoPを事業としてある程度確立している企業が複数存在する。
例えばKontikiという企業は、PtoP技術による企業向け動画配信を行っているが、ここはまさにNapsterのようなファイル交換ソフトと類似した技術を基に格安で動画配信サービスを提供し、成果をあげている。
実はこのKontikiも、創業当社は一般向け動画配信を主力事業として検討したようだが、訴訟リスクを考えて企業向けサービスに特化した経緯がある。
ただ、Kontikiのシステムは、SNOCAP等と同様に著作権管理システムを併用することで、コピーコントロールをかけた状態での動画ファイル配信が可能となる。つまり、法律の線引きさえ明確になれば、一般向け動画配信を再度事業として検討することも比較的簡単だ。実際同社のシステムは、2005年3月にCINEQUESTというインディー系映画祭で映画の配信システムとして採用された上、4月にはNetscapeの創業メンバーが立ち上げたOpenMediaNetworkというPtoP型動画配信ネットワークのインフラとしても採用されるなど、積極的に事業の幅を広げている。おそらく、今後も米国においては同様の事例が増えていくことだろう。
一方、日本の状況を考えると、米国よりずっと手前のレベルにとどまっているというのが正直な印象だ。
ADSLやFTTHなど通信インフラは整っているものの、AppleのiTunes Music Storeがいまだにサービスを開始できていないことに象徴されるように、著作権の管理やコンテンツホルダーとの交渉に課題があることや、米国のように法律の判断基準が明確でないために訴訟リスクが大きいといった問題が障壁となっているようだ。
ただ、PtoPをファイル交換としてではなく、単純に技術的視点からとらえると、大手企業を中心に徐々に動きも見えはじめている。ベンチャー企業の中でPtoP技術に取り組む企業は、筆者が勤めるアリエル・ネットワークぐらいかもしれないが、大企業の研究レベルでは、長期的に取り組んでいるNTTグループをはじめ、2004年3月には日立がセキュリティに優れたPtoP技術を発表し、2005年1月にはNECが「PtoPWebプラットフォーム」を発表するなど、複数の企業が研究成果を発表し始めている。最近はPtoP型のIP電話Skypeブームの影響などもあり、日本でも建設的な議論が始まってきたと感じている。
もちろん、個人的にはPtoP技術の魅力は、これまで大企業でなければ実現できなかったようなサービスを1人の開発者でも開発でき、それが世界で利用される可能性があることだと思っている。ただ、これまでそれが過度に強調されすぎ、PtoPがコントロール不可能だというイメージを持つ人が多いのは非常に残念だ。
おそらくWinny裁判の経過によって適法基準が明確になれば、日本でも米国と同様にPtoP技術を使ったビジネスの可能性が明らかになってくるだろう。ぜひその頃には、ブロードバンド大国ならでは、日本ならではの、PtoP技術を生かしたサービスが数多く生まれることを期待したい。
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