ネット裁判の公式文書を公開し議論するプロジェクト始動--まずは住基ネットから

別井貴志(編集部)2005年06月04日 21時28分

 住民基本台帳ネットワークシステム(住基ネット)をめぐる訴訟で、2つの対照的な判決が続いた。5月30日に下された金沢地裁の判決ではプライバシーの侵害だとして原告の住基ネットからの離脱を認め、続く31日に下された名古屋地裁の判決では、プライバシーの侵害だとして個人情報の削除と慰謝料などの支払いを求めた原告の請求を棄却した。

 これについて、CPSR/Japan(社会的責任を考えるコンピュータ専門家の会日本支部)の代表である山根信二氏は「これは情報セキュリティや危機管理の困難さを示している」と感想を述べる。そして、「司法判断はどのような困難に直面したのか、裁判官はどのような証拠を判断材料としたのか、説得力を持ったのはどの書類かといった具体的な検証を行うためには、裁判資料にアクセスできないという大きな問題がある」と指摘した。

 たしかに、住基ネットに関する問題だけではなく、Winnyの開発者が著作権法違反ほう助罪に問われた裁判や、不正アクセス事件、ソフトウェアの特許侵害など、コンピュータやネットワークに関する係争はますます増えるいっぽうだ。

 裁判に発展していない話でも、つい最近では価格.comの不正アクセス事件に見られるように、「不正アクセスの手口とどう対策したのか情報公開するべきだ」という議論が活発に行われた。こと裁判にかぎれば、コンピュータやネットワーク、法律の専門家が法廷で意見を述べることも多くなっているが、係争を分析したいと考えても裁判の議事録はないし、証拠書類ももちろん公開されない。マスメディアを通じた断片的な情報ぐらいしかない。判決文にしても、すぐに公開されるわけではないし、一般に判決文を読解するのも難しい。

 そこで、山根氏は通信NPOのJCA-NETと協力して、コンピュータ技術をめぐる訴訟について意見交換の場をオンライン上に設けるプロジェクトを開始した。具体的には、実際に法廷に提出された公式文書を使って、オープンに意見を交換する場であるオンライン討議サイト「オープンロー@hatena」を6月1日から正式に稼働させた。はてなのアカウントがあれば誰でも参加できる。

 また、法廷に提出された文書は、JCA-NETの電子政府・電子自治体の情報セキュリティ状況に関する資料提供プロジェクトである「e-GovSecProj/JCA-NET」が行う。

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