このプロジェクトでは、弁護団などの協力を得て、裁判所に提出された資料を入手、スキャンし、個人情報やセキュリティホールを暴露する情報を塗りつぶしたうえでネットに公開する。公開する資料はすべて公開前に協力を得ている弁護団の許可を取る。そして、この一次情報に基づき、実名または仮名での投稿やトラックバックによって情報交換や議論を行う。対象とするのは、社会的影響が大きく情報通新技術にかかわる進行中の裁判だ。
まず、2005年6月から8月にかけては最初の事例として、全国各地で進行している住基ネット差し止め裁判に取り組む。すでに、金沢地裁判決(一部速報版)と名古屋地裁判決(全文)をオンラインで公開している。「詳細が明らかにされていないため、これまで専門家が住基ネットについて実証的な議論を行うことが困難だった。そこで本プロジェクトでは法廷でのコンピュータ専門家による証言およびに国の答弁にもとづいた具体的な検討を行う」と山根氏は語る。
こうした議論については、裁判の関係者たちのニーズもあるようだ。ある弁護士によれば、「ネットやセキュリティに関して特に技術的な専門知識がないので、専門家の意見を広く聞きたいと考えることは多い。しかし、そうした専門家に裁判の資料をどこまで公開して意見を聞くべきかその判断がつかない」と言う。
このプロジェクトのモデルは、ハーバード大学ロースクールのバークマンセンター(Berkman Center for Internet & Society)が行っている「Openlawプロジェクト」だ。これは、訴訟と同時進行で専門家だけでなく非専門家も交えたオンラインのブレインストーミングを行い、場合によってはメーリングリストを使ってまとめた意見を裁判所に参考提出することもある。
山根氏は「いちはやくネット時代の訴訟社会に突入した米国のコンピュータ業界では、ACM(教育・科学コンピューティング協会)やCPSRといったコンピュータ専門家団体が、法律とコンピュータ技術の間を埋める試みを進めている。コンピュータ専門家が見守る壇上で法律家がハイテク訴訟の模擬裁判を行うことも珍しくないし、注目される裁判の経過を専門家がウォッチするオンラインサイトも定着している」と、日本の状況との違いを説明する。そして、「裁判の原則を考えれば日本でも資料などを公開し、それに基づいて活発に議論をすることにより、技術的な問題と法律的な問題とを同時に検討する新たな社会的コミュニケーションを作っていきたい」と抱負を語った。
ただし、あくまでも当初は議論する場を実験的に提供することと、裁判資料を公開することの2点に注力する。こうした実験的な試みのため、米国のように報告書をまとめる予定はない。この理由について山根氏は「意見書をまとめる法律スタッフがいないという消極的な理由だけでなく、むしろ異なる立場の人たちがいま行われている裁判に注目するというコミュニケーションそのものを目的にしているためだ」としている。ある程度時間が経過したら実験の成果などを検証してまとめ、米国のような活動をしていくかどうか判断する。
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