思い返してみると、今年のバレンタインデーに日本経済新聞本紙の「きょうのことば」欄は「デジタル景気」を以下のように解説している。
この欄を読んで、誰もが思ったに違いない。「当たり前のことじゃないか」と。わざわざ「デジタル景気」などと名付けるほどでもないことを大仰に取り上げ、「新三種の神器」にまで言及しているものの、そのネーミングには何の根拠もない。本質的な意味合いがないものであっても、それらしいネーミングをすることであたかも現実のような気がしてくるものだ。
半年まではあれほどまでに煽っておきながら、この秋の現実を目にしたときには思いがけないほどに厳格な態度で臨むメディアに違和感を覚える方も多かったに違いない。
本当の成長=進化を求めて
実際には、全産業内部プロセスが俊敏に連携することはない。また、誰もが「シリコンサイクル」など、市場における受発注のズレが大いに生じるという現実を知っている。一時のCALSブームなどで言われていたような、製造プロセスのスリム化が進めば進むほど各プロセス間で中間製品のだぶつきが減り騰落幅は小さくなるということは、産業全体では成立しないことが知られている。内部の無駄の外部化によって、該当する企業内部での騰落幅は減らせるが、産業全体のプロセスではいかんともしがたいのだ。
現実には、製造ラインがスリム化されたがゆえに、市場の成長を見越した過剰気味な注文にラインが対応しきれなくなった。そのためセットメーカーは複数の部品メーカーに欠品が生じることを見越した過剰注文をせざるを得なくなり、結果的に産業全体での波はむしろ大きくなった。しかし、このことはドットコム・モバイル・バブルのときに誰もが経験済みであり、今回のデジタル景気とやらが初体験ではないはずだ。
ましてや、今回は薄型テレビなどの「新三種の神器」は価格の急落が起こる領域であることは明らかだった。次世代工場の稼働や世代の新しい技術の導入によって容易に価格が急落することはわかっている市場だ。これはDRAMなどで学習済みのはずである。メディアが持ち上げること自体おかしいし、持ち上げられて調子に乗るほうにも問題がある。
では、本来的な成長=進化に対する方策は採られていたのだろうか。残念ながら、それほど採られているとは言いがたいのではないか。
「初めての世界」に飛び込む
たしかに松下グループは、デジタル系機器向けソフトウェアの統一を行うなどの先行投資を決定した。これは戦略上かなり重要な投資であるにもかかわらず、なかなかなされなかったもののひとつだ。だが、これも既存事業モデルの内部効率の向上、あるいは最適化でしかないという「身も蓋もない」評価もできよう。
また、家庭内のデジタル機器をネットワーク化するための標準規格を策定する「デジタルリビングネットワークアライアンス(DLNA)」のような試みは、今後のデジタル機器環境の充実のための大切なステップだ。しかし、Blu-ray陣営とHD DVD陣営とで争われている次世代DVD規格競争と同様、「この道はいつか来た道」的なデジャヴ感を覚えざるを得ない。
本質的な事業モデルの変化を模索する試みは、少なくとも大胆には行われていない。せいぜいあってソニーのMGM買収など「垂直統合への夢再び」といった挑戦がある程度だろう。この挑戦に対して、一般的にはポジティブな評価はなされていない。むしろ、「モノつくりメーカーにサービスやコンテンツは不釣り合い」といった常識的発想しかない。それは、数年前の「夢を語るソニー」に対しての失望感から来ているものかもしれないが、その結論を下すのには早すぎはしなかったか。そもそも、そんな常識を覆すことが「イノベーション」ではないのか。
確実に、手堅く進むことも重要だが、挑戦なくして進歩がないことをわれわれは「失われた10年」で痛いほどに学んだはずだ。そして何をするべきかは、その内容はともかく、方向性に限っては明らかではないのだろうか。
電機事業者の経営陣の皆さん、移り気なメディアを気にしていてはどうしようもありませんよ。
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