1990年代初頭のIBMがいかに軍隊風の階級社会だったかを示す逸話がある。ある元社員の証言によれば、当時CEOだったJohn Akersがノースカロライナの工場を訪れたとき、彼はAkersがロビーでエレベーターを待つことがないように、エレベーター係を任じられたという。この種の思考は、数年前にもまだ残っていたようだ。同社の別の関係者によれば、IBMのハードディスク部門のある研究所は、シニアバイスプレジデントが立ち寄ると聞いて、そのわずか15分の訪問のために、業務を2日間停止して大掃除に取り組んだという。
Palmisanoが100億ドルを投資してオンデマンド・イニシアチブを推進すると発表し、CEO就任の記念碑とした背景には、このような硬直した社内環境があった。改革に向けた強力な対策を打ち出さなければ、前任者の抜本的な組織改革と大胆な技術的決定によって始まった進化を持続させることはできない--社歴の長いPalmisanoはそのことをよく知っていた。
IBMは1990年代初めまでに、顧客との接点を失い、業界の主な動向にも疎くなっていた。当時の戦略の基調となっていたのは、顧客をIBM製のメインフレームシステムに縛り付けることだった。これに対し、自身がIBMの顧客だったこともあるGerstnerは、顧客にアップグレードを強いることで自社のビジネス上の問題解決を図ろうとするIT業界のやり方をばかにしていた。
IBMは今、ハードウェア一辺倒の企業から、ソフトウェアとサービスを中心とした企業へ完全に脱皮しようとしている。顧客が必要としているのは商品を並べたカタログではなく、業界ごとに必要なソフトウェア、ハードウェア、サービスをパッケージ化した「ソリューション」だとPalmisanoは考えている。
「Sam Palmisanoは顧客のビジネスについて語り、その他のIBM社員は技術的側面について語る」とWohl Associatesのアナリスト兼社長Amy Wohlはいう。「顧客側のCEOと話をするときはビジネス上の価値について語れ---それこそIT業界が学んだ教訓だ」(Wohl)
|
しかし、サービス主導のアプローチにもリスクはある。コンサルティング・サービス市場のグローバル化が進むなか、IBMのコンサルティング部門は高額なソリューションを買ってくれる顧客を、安価なソリューションを提供する企業と奪い合わなければならない。また、なかにはITプロジェクトのために大勢のコンサルタントを雇う必要性に疑問を抱く顧客もいるだろう。
IBMのコンサルタントチームは必ずしも製品を熟知しているわけではないと指摘するのは、ジョージア州コロンバスに拠点を置く年商10億ドルのクレジットカード決済会社TSYSで技術ディレクターを務めるTim Kellyだ。「いざという段になって、コンサルタントが突然本を取り出し、目の前で読み始めるのです。取るべき策を考えるためにね。時給300ドルの請求書が突然、苦々しく思えてきますよ」(Kelly)
それだけではない。オンデマンドの定義は相変わらず、IBM以外のほとんどの人間にとってあいまいなままだ。オンデマンドを「ユーティリティコンピューティング」「ホステッドアウトソーシングサービス」といった業界の流行語や専門用語といっしょくたに考えている顧客もいる。わけても懐疑的な人々は、既存の商品やサービスの上っ面を変えただけだと手厳しい。
「オンデマンドは裸の王様を思い起こさせる--新しいことや、変わったことは何もない」と断じるのは、マサチューセッツ工科大学スローン経営大学院の教授Michael Cusumanoだ。「顧客にハードウェアやサービスを売りつけようと、一部のIT企業が騒ぎ立てているにすぎない」(Cusumano)
IBMの幹部は、オンデマンドがコンピューティング市場を再定義する試みであることを認める。PCネットワークやバックオフィス・アプリケーションといった小規模の案件では、もはや利益を出すことはできなくなっている。現在、IT企業各社が力を入れているのは、複数の部署が関与するプロセスを自動化する製品だ。
「誰もがこの分野に取り組み、関心を寄せている。つまり、われわれは正しい方向に向かっているのだ」とIBMソフトウェア部門担当のシニアバイスプレジデント、Steve Millsはいう。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
OMO戦略や小売DXの実現へ
顧客満足度を高めるデータ活用5つの打ち手
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス
企業や自治体、教育機関で再び注目を集める
身近なメタバース活用を実現する