ウッズが華麗なプレーで人々を魅了したとすれば、試合を運営するPGAツアーはバーチャルの側面から再燃したゴルフ人気にあやかろうとした。同社はIBMの協力を得て、ファンが試合状況をリアルタイムでチェックし、100人以上の選手が450エーカーのコースで繰り広げるショット(1試合約2万5000打)を自由に追跡できるサービスを構築したのだ。
PGAツアーの情報システム担当バイスプレジデント、Steve Evansは、メーカーにこだわらず、最適の技術を提案するIBMの柔軟な姿勢に恐れ入ったという。
「的確な助言を得ることができた。IBM製品を押しつけられたことはない」とEvansは振り返る。
しかし、IBMは利他的な理由から、こうした分け隔てのない技術的アプローチをとっているわけではない。これは、パートナーや顧客と信頼関係を築くためのより大きな戦略から生まれた、計算済みのリスクだ。自分たちの助言が頼みになるものであればあるほど、顧客は信頼性と便宜性の両面から、自然とIBM製品に傾倒するようになると、IBMはそう考えている。
いまのところ、このアプローチはうまくいっているようだ。この十数年でIBMのサービス事業は定期保守の枠をはるかに超えたものになった。昨年、IBM Global Servicesは全社の年間売上高のほぼ半分にあたる426億ドルを稼ぎ出し、世界最大のITサービス・プロバイダーになった。そして今、このサービス界の帝王は新たな領土の開拓に乗りだそうとしている。
かつて、IBMのサービス部門はコンピュータ機器の修理というありふれたサービスを提供する存在にすぎなかった。それを変えたのは前CEOのLou Gerstner である。同氏はIBMが1990年代初頭に抱え込んだ損失を精算する重要な施策の1つとして、サービス部門の強化を掲げた。GerstnerがCEOになる2年前の1991年には、サービス部門の売上高は130億ドル、その半分以上は保守サービスだった。ところが、同氏がIBMを去った2002年には、保守サービスの売上高は減っていたものの、サービス部門の売上高は364億ドルまで激増していた。
続いてIBMはPricewaterhouseCoopersのコンサルティング部門を買収し、ビジネスコンサルティング能力を強化した。そして、非技術的業務(機器調達やカスタマーサービスなど)のアウトソーシングという成長市場に参入する。現在、IBMは数千件に及ぶ保険金請求処理、Procter & Gambleの従業員の給与計算、Philips Consumer Electronics製のテレビやCDプレイヤーの修理といった業務を請け負っている。
「IBMは抜きんでた存在だ。これほど確固たるビジョンを持った企業はほかにない」 と調査会社Saugatuck Technologyのアナリスト、Michael Westはいう。
とはいえ、現在の成功が未来の成功を保証するわけではない。IBMはサービス分野の支配を拡大しようとしているが、Electronic Data Systems、Accenture、Perot Systemsといった既存勢力は激しく抵抗している。中規模企業市場では銀行、運輸、医療など、各業界を専門とするニッチ企業と競合することになるだろう。Oracle、Microsoft、SAPといったソフトウェアメーカーとの闘いも避けられない。
収益性の面でも不安がある。第1四半期のサービス部門の粗利率は0.4%減の24.5%となった。海外アウトソーシングに対する批判も懸念事項の1つだ。先日公開された内部メモは、この問題に関する社内のやり取りを「浄化」するよう指示するものだった。
こうした問題を抜きにしても、IBMがサービス市場で覇権を失う可能性は高いと業界アナリストは見ている。
「サービス分野は細分化がきわめて進んだ市場だ。したがって、多くの成長のチャンスがある」と、Schwab Soundview Capital Markets のアナリスト、John Jonesはいう。
技術サービスは成長が見込まれる市場の1つだ。その大きな理由は、企業のシステムが複雑化し、社内で管理するのが困難になっていることにある。技術サービスと、いわゆる「ビジネス・プロセス・アウトソーシング(BPO)」(財務、会計などの業務を外注すること)とを合わせた市場規模は、昨年世界全体で5%拡大し、5810億ドルとなった。Jonesによれば、この数字は2003年から2007年の間に、年約9%で拡大すると見込まれているという。IBMの昨年のシェアは7.3%、2位のEDSは3.5%だった。
サービス市場の覇権を拡大するために、IBMは顧客に適したハードウェアとソフトウェアをベンダーを問わずに提案する姿勢を前面に打ち出している。IBMによれば、同社のデータセンターに格納されている顧客用サーバの45%はIBM製ではないという。また、経済バブルとその崩壊を経験した現代の企業は、既存のシステムをお払い箱にするような高額で融通のきかない助言に疑問を抱くようになっている。
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