VoIPの普及で長距離通信事業者が危機、NTTは安泰

藤本京子(CNET Japan編集部)2003年12月18日 19時15分

 日本で普及が進みつつあるVoIPサービス。先行してサービスがはじまった米国では日本ほど市場が成熟していないのが現状だ。同市場の現状は、そして今後はどうなるのか。IDC Japanのコミュニケーションズマーケットアナリスト、ダニエル・ニューマン氏が分析した。

 インターネット先進国の米国で、PCにソフトウェアをインストールするかたちではじまったIP電話。PCを介しての通話に加えて一般に普及したのが、プリペイドカードによる格安長距離電話だ。海外でのIP電話市場はほとんどがこの段階でとどまっているが、ブロードバンド化が進んだ日本では、Yahoo! BBのBBフォンをはじめとするIP電話サービスが普及し、さらに本格的な050ではじまるIP電話専用の番号が利用されるようになるなど、日本が先行して同市場を築き上げつつある。米国ではPC同士の通話がはじまった時代からIP電話を専業とする企業が多く存在し、最近では相互接続料金を回避するために長距離電話会社のAT&TもIP電話市場に参入したが、「加入者は多いところでも8万人程度で、日本が進んでいることは明らか」とニューマン氏はいう。

 国内では、ブロードバンドの普及に伴い個人向けVoIPサービスも普及しはじめているが、「VoIPはブロードバンドのキラーアプリではあるものの、同サービスが登場する以前からブロードバンドブームははじまっており、VoIPのためにブロードバンドを導入するユーザーはいないのが現状だ」とニューマン氏は指摘する。だが、ブロードバンド加入者間でのVoIPサービスの普及は着実に進むと同氏は見ており、現在半数以下にとどまっているブロードバンド加入者のVoIP利用率は、2007年には約90%まで増加するだろうとしている。

IDC Japanコミュニケーションズマーケットアナリスト、ダニエル・ニューマン氏

 いっぽう法人向けのVoIPサービスは、広域イーサネットなど新型WANサービスの導入が着実に進んでいることに加えてコスト削減に対するニーズもあり、データと音声の統合を前向きに検討している企業が多いとニューマン氏はいう。だが現時点では、コスト削減がVoIPサービス導入の第一の目的となっているケースが多く、付加価値サービスが利用されるまでには時間がかかるだろうとしている。

 ニューマン氏によると、現在1000億円以下にとどまっている国内のVoIPサービス市場規模は、2007年には7000億円まで拡大するという。同氏はそのうち3分の2を法人向け市場が占めるとしているが、その理由として「個人向けサービスは、これまで利用していた通常の電話サービスがIP電話に置き換わるだけで、利用者の数が増加する点のみでの市場拡大しか望めない。その点法人向けサービスは、付加価値サービスへの需要が高まる可能性が高い」ことをあげている。付加価値サービスの例として同氏は、かかってきた電話をスクリーニングする機能や転送機能、電話会議、IPコールセンターなどがあるとした。

キャリアへの影響は?

 VoIPの普及で打撃を受けるとされている通信事業者だが、ニューマン氏によるとNTT東日本・西日本における影響はそれほど大きくないだろうとしている。それは、現在ブロードバンドの主流とされているADSLにはNTTの回線が必要で、ユーザーはこれからもNTTに基本料金を支払い続けること、また通話料は多少影響があるかもしれないが、市内通話でIP電話を利用する料金的メリットは低く、ユーザーが今後も通常のNTT回線で市内通話を行う可能性が高いためだとしている。NTTの懸念材料としては、VoIP化で長距離通話がNTTを介さずに接続できるようになるため、他社からの接続料金が激減する点だとニューマン氏は指摘するが、他の打撃が比較的小さいため、ビジネスモデルを見直すことで対応が可能だとしている。

 いっぽう長距離通信事業者は、VoIPの普及で大きな打撃を受けるとニューマン氏。ユーザーがすぐにVoIPサービスに移行しないとしても、BBフォンなど低価格のIP電話サービスが普及するにつれ、価格に対する圧力が高くなると同氏は指摘する。VoIPサービスが普及すればするほど長距離通信事業者にとっては不利な状況となり、「ビジネスモデルの抜本的な見なおしが必要となるだろう」としている。

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