VoIP導入のリスクと利点

John C. Dvorak , Chris Pirillo, Wendy Taylor2003年11月12日 10時00分

 "Online! The Book"の著者が、音声とデータを組み合わせる際に企業は何に焦点をあてるべきか、またVoIPは普及する前にどのように進化すべきかを詳しく述べている。

 企業内において、またビジネスコミュニケーションの環境において、音声やファックス、データ、そしてマルチメディアの送受信をひとつの多目的ネットワーク上にまとめることは、明らかな利点がいくつもある。

 通信費が下がり、長期的なネットワーク保有コストが削減され、そして新しく強力な音声対応型アプリケーションを使えるようになるといった話しは、どれも注目せずにはいられないものばかりだ。それが刺激となって、ビジネス界でのVoIP技術に対する関心は一気に高まっている。

 しかし同時にIT責任者は、様々な理由から、集中型ネットワークと音声のパケット化という未知の世界への移行には慎重である。データネットワーク上での音声通話の品質に対する不安や、VoIPソリューションの安定性への懸念、また今あるアーキテクチャに早急に飛びついた結果として身動きがとれなくなるのが心配なのだ。

 企業内で音声とデータサービスとを統合させる方法や時期については、多くの議論があるだろう。しかし、それを実行した場合の効果は非常に説得力があるものだ。すでにVoIPを早期導入した企業がその効果を実証している。

通信費の低下

 毎月の電話通話料が削減できるということは、音声通話を企業のデータネットワークに融合した場合の明確な利点のひとつだ。内線通話の量と拠点間の距離によるが、一部の企業にとっては、電話通話料の削減が最も魅力的な理由かもしれない。

 また海外に拠点を置く企業では、国際長距離通話料の削減が最大の利点だといえる。特に、独占的な長距離電話市場である国への通話料を削る効果は大きい。

 拠点間の通話に加え、社外への通話コストも削減できる。まず、通話は企業のネットワークを介して目的地に最も近い別の拠点へと送られる。例えば、ロサンゼルスと東京に拠点を持つ企業の場合、通話は企業のネットワーク経由で拠点間を行き来し、その後現地の電話会社に受け渡されることになる。つまり、ロサンゼルスから東京を経由して、東京以外の日本国内への通話が可能となるのだ。このようにして、長距離通話料の大部分が削減できる。

 データネットワークを音声に利用する経済的な魅力は2つだ。第一に、データネットワークの容量は通常余裕を持たせてあるものだ。第二に、データ処理と比べると、音声が必要とする帯域幅は比較的少ないのである。音声データを圧縮すれば、容量を増やすために追加投資をしなくても既存のネットワークに新サービスを統合できる。

ネットワークコストの削減

 VoIPシステムで削減できるコストは、毎月の通信費だけではない。データネットワークを統合すれば、音声用・データ用に2つの異なるネットワークを保有した場合に発生するコストも削減できる。

 ネットワークで必要な費用は、機器の購入、活用、管理から、ソフトウェアライセンス、通信のモニタリングなどにかかる人件費と設備費だ。人件費は常にビジネス上の大きな懸念材料で、現在有能なIT系の人材を獲得するためにはかなりの費用がかかる。

 音声とデータサービスを融合させることで、企業は自社のネットワークを整理し、IT系の人材を最大限有効できる。つまり、VoIPを採用した企業は明らかに市場優位性があるということだ。

強力で新しい統合アプリケーション

 VoIPで、ウェブ上のコールセンターや一体化されたメッセージングサービス、リアルタイムの共同作業など、音声とデータの新しい統合型アプリケーションが可能となる。これにより企業は、顧客によりよいサービスを提供できるようになり、市場優位性を高めることもできる。

 例えば、ウェブ上のコールセンターは、ブラウザ経由のサイト訪問者を購入に導く際に生じるコミュニケーション上の問題を解決する。これまで、ウェブ上での買い手・売り手間の対話にはかなりの問題があった。

 しかし、ウェブ上のコールセンターがあれば、顧客は単にリンクをクリックするだけで実際のカスタマーサービス担当者と話すことができる。担当者は質問に答え、顧客の購入判断を早めるよう働きかけられる。

 リアルタイムマルチメディアやテレビ会議、遠隔地教育、そして電子書類への音声リンクの埋め込みなど、今後発表が予定されているVoIP関連アプリケーションはほかにもあるが、これらはまだほんの序の口である。

 音声とデータのネットワーク統合には、考慮すべきリスクも多い。それは以下のようなものだ。

音質の低下

 多くの企業が心配しているのは、現在の交換回線ネットワークと比べた場合の音質の低下である。データネットワーク上では、パケット化された情報が一種の非線形の状態で動き回り、時には一部が無くなったり落ちたりする。特に、大半のデータアプリケーションを扱うEthernetネットワーク上でこういった事故が発生する。データ通信の場合にはこれは大きな問題とならないが、それはEthernetやIPのエラー修正機能でこれらの事故を埋め合わせることができるからだ。

 ところが音声データの場合は、効率的でリアルタイムな情報パケットをネットワークの端から端まで流す必要があり、こういった事故に対する影響力が大きい。

信頼性

 コンピュータとネットワークデータアプリケーションを利用したことがあるならば、システムやネットワークがダウンした時に感じるフラストレーションは理解できるだろう。大半の人は、受話器を持ち上げれば常に発信音が聞こえ、信頼できて途切れることのない通話サービスが受けられることを当たり前だと思っている。VoIPもこれと同じレベルの信頼性に近づく必要があり、それが実現してはじめて交換回線ネットワークの代替技術となることができるのだ。

技術の採用

 音声とデータの統合ネットワークを採用する際にユーザー各社が心配しているのは、早まって間違った技術を購入してしまう恐れがあることだ。

 まず、購入したあとで後悔するのではないかという不安がつきまとう。あるソリューションに巨額な投資をしたあとで、もっと優れたソリューションが登場するのではないかという考えだ。さらに、あるソリューションを購入した結果、そのアーキテクチャに長期間縛られるのではないかという不安もある。こちらのほうが影響は大きく、市場には他にいい製品が出回っていても、サービスや管理ツールの選択は限られたものになってしまう。

リスクvs.利点

 VoIPと統合型ネットワークの現実は単純に言うとこうだ。統合型ネットワークはすでに目の前まで来ており、これをうまく適用すれば、新サービスの利点とコスト削減の恩恵を享受することができる。VoIP技術を導入する企業は、大きな競争優位性を手にするだろう。

出典:John C. Dvorak、Chris Pirillo、Wendy Taylorによる共著「Online! The Book」(*)の第28章からの抜粋。題名「Voice Over Internet Protocol」の章をPrentice Hall Professional Technical Reference (PH PTR)からの許可を得て転載。
(*) 国際標準図書番号 0-13-142363-0、著作権2004年、無断複写・複製・転載禁止

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