HP、「Linuxはオモチャでいられない」

 米Hewlett-PackardのLinux戦略担当バイスプレジデント、Martin Finkにとって、人生はこのところ順調のようだ。

 HPは米SCO Groupが起こした訴訟に対する補償を顧客に約束した。この決断が、販売増に大きく貢献したとFinkは語る。また、HPは米Sun MicrosystemsのSolaris OSに対抗するLinux製品で成功を収めつつあるという。

 FinkはHPに18年間勤め、ハードウェアやソフトウェアのサポート、コンサルティング、テレコム事業などの様々な職務に就いてきた。また、Open Source Development Labs(OSDL)という、Linuxの実用化を目指す企業が集まったグローバルコンソーシアムにおいて、理事会のバイスプレジデントも務めており、「The Business and Economics of Linux and Open Source」という本の著者でもある。

 CNET News.comは最近、長距離出張中のFinkをつかまえ、LinuxとUnixの未来について話を聞いた。

---SCO訴訟は、顧客にどの程度の影響を与えていますか。不安を感じた顧客がLinuxを使わなくなったり、HPの顧客が減ったりしていますか。

 実際のところ、Linux市場全体が成長中です。我々の見るところ、Linux市場は30%から40%の成長を続けています。しかし同時に、Linuxを企業のより深い部分で使おうと考えている最高情報責任者(CIO)と話をすると、彼らがリスクを懸念しはじめているのも事実です。

 SCOは告訴をしないというCIOも多いかもしれません。しかし、告訴される可能性があるということは、費用がかかる可能性があるということです。自分を守らねばなりません。HPの補償制度では、「HPは、ソリューションについての説明責任を果たすと共に、顧客を守り、その費用も負担します」と言っています。このことは、顧客が垣根を乗り越えLinuxへと向かうのに、劇的な効果を発揮しました。

---補償ルールはどのように生まれたのですか。

 気まぐれで実施したのではありません。相当量の評価を行いました。リスクの内容を分析した上で、顧客のためにそのリスクを喜んで引き受ける決断をしたのです。他社の対応を見ると、米IBMと米Red Hatは反訴しました。しかし、顧客から見れば、それでは問題は解決されません。補償を約束することが、今日の本当の問題を解決したのです。

---IBMが補償をしないのは、この訴訟が事実無根だと考えているからです。リスクを補償するという発言で、なぜSCOの主張を認めるのですか。

 アナリストや顧客の反応は肯定的でした。否定的な反応があった唯一の場所は、オープンソースコミュニティです。その反応というのは、HPがSCO訴訟を尊重しているというものでした。しかしCIOの立場に身を置けば、この訴訟が事実無根のものか、また我々がSCOの言い分を認めるか否かは、どうでもよい問題です。関心があるのは「訴えられ、費用を負うことになるのか」です。HPは、こういった費用から顧客を守る手段を提供しています。IBMに説明を求めたいですね。この訴訟が事実無根ならば、IBMも補償を約束すればいいじゃないかと。

---補償を約束した結果、実際に販売数を伸ばしましたか。

 金融サービス業界でのシナリオをご紹介しましょう。我々の発表日に、ある大手企業のCIOがIBMに注文書を発行しようとしていました。そこに我々の発表があり、このCIOは「再考の必要がある」と言ったのです。その注文書は、純粋に我々の補償ルールがもとで差し止められました。

---オープンソースコミュニティの中には、米Novelによる独SuSEの買収が、この業界の官僚化の兆しだと言う人もいます。HPの考えはどうですか。

 私は、自分自身もオープンソースコミュニティの一部だと考えています。(Linuxの)コミュニティは、二兎を負うことはできないと理解しなければなりません。Linuxは、趣味に熱中する人の玩具でありながら、業界の主要なオペレーティングプラットフォームとなることは不可能です。この2つは相容れません。Linuxが、信頼できるものとして企業で利用されるためには、一般的な進化と成長の過程を経なければなりません。整理統合もいくつかありました。どんな新しい市場にも、初めは多数の小規模な企業が存在し、やがて合併が起こるという、MBAの101の鉄則がここでも見られます。同じことがLinuxに起きています。今は、強力で影響力のある企業が2つあり、活発な競争を展開できるという発想が本当に気に入っています。

---Linuxの売れ行きについて、ハードウェアにはどんな特徴がありますか。

 ほとんどがIntel x86サーバです。特に大型スーパーコンピュータのアプリケーションの分野では、Itaniumも使われています。ItaniumとHP Linuxを使った着陸制御システムを利用している空港もあります。現在、ItaniumサーバではLinuxが確実に首位の座にあります。HPにとって、Linuxが全てではありません。我々は、複数のOSに対応しています。我々の分析では、企業の85%が複数のOSを利用しています。「世界がLinuxに向かっている」と言う発想は、現実的ではありません。「強力なLinuxソリューションを持つべきだが、WindowsとUnixも持つべき」なのです。我々のSystems Insight Manager(開発コード名Nimbus)は、全てを扱うプラットフォームです。

---HPは米Microsoftと親密な関係にありますよね。Linuxを推奨することで、この関係にどんな影響があるのでしょう。

 我々は、マルチOS戦略を掲げています。IBMはほかを犠牲にしてLinuxを推奨していますが、我々は、エンタープライズソリューションの一部としてLinuxを推奨しています。HPがLinux商品を販売することをMicrosoftが望んでいるかといえば、ノーです。しかし、同時に、MicrosoftはLinuxが市場に存在し、HPが競争しなければならないことを理解しています。Microsoftとの競争ではありません。HPはMicrosoftに挑戦を突きつけているのではないのです。それは、DellやIBMとの競争です。

---デスクトップLinuxについてはどのように見ていますか。

 デスクトップLinuxは、確かに、誇大広告がケタ違いに大きく現実の先を行っている分野です。Microsoftに挑戦するという発想は魅力的だからです。実際には、(デスクトップLinuxの)市場シェアはまだ2%以下です。ただし一方で、我々はLinuxのデスクトップソリューションを数多く認定・販売しています。興味深い分野が2つあります。米DreamWorksや米Disneyのような企業のエンジニア向けデスクトップと、アプリケーション開発者向けです。我々は、Linuxのノートブックを扱っていますが、そのターゲットはトップレベルのアプリケーション開発者です。Windowsのしがらみがない発展途上国、インドや中国、アジア太平洋地区、東欧圏には、非常に大きな市場があると見ています。

---ComdexでSunが行った発表についてはどう考えますか。Linuxのデスクトップを中国で販売するという話ですが。

 真偽を確認している最中です。私自身、数カ月前に中国に行きました。中国のRed Flag Softwareとの契約に署名をしたのですが、同社は中国でのLinuxデスクトップの90%を占める企業です。(Sunの発表には)本当に混乱しました。皆が2つ買うとでもいうのでしょうか。計算が合いません。Red Flagとの関係を私が押さえているとしたら、Sunがどうやって大きなビジネスを展開できるのか。全く理解できません。

---人々は2つのプラットフォームの存在にすでに慣れているようです。

 それはわかりません。展開を見守る必要があります。(Linuxの)デスクトップは未成熟です。Windowsデスクトップのほうが、より洗練され、より発達しています。顧客は、新しいコンピテンシーセンターを設立して2つのOSをサポートしなければならないと言っています。考えてみれば、顧客はそれをサーバ側では長年行ってきたのです。しかしデスクトップ上で顧客がどうするかは、分かりません。

---顧客をHP-UXからLinuxへと誘導しようとしているのですか。

 ビジネスアプリケーション志向が強い顧客なら、HP-UXを使います。今から4、5年前、サーバの市場はUnixが200億ドル、Windowsが200億ドル、Linuxは90億ドルでした。これが、我々が「Linuxが全て」としない理由です。Linuxが全てというのは現実的ではありません。移行という話では、64ビットでLinuxに移行した顧客がいます。しかし大規模なSAPシステムを稼動している顧客は、依然としてHP-UXを使っています。

---Unixが消滅する日がくると思いますか。

 3年以上先の話はできません。3年という時間軸、つまり予見可能な将来においては、Unixは横ばいで推移するでしょう。Unixは成長分野ではありません。成長の大半はLinuxによるものです。しかし、Unixビジネスはなくなりません。Unix市場のプレイヤーの中には、Linuxの射程にまともに入っているものもあります。Solarisは消え行くUnixです。

---SunがLinuxの大きな犠牲となる理由は。

 Linuxが始まったころ、そのほとんどがWebサーバアプリケーションに使われていました。それは、Sunが爆発させた市場です。Sunのビジネスはローエンドビジネスに片寄っています。HPとIBMはミッドエンドからハイエンドに集中させています。Linuxはローエンドに入って来ました。Linuxのコストバリューと移行費用の安さは、Linuxが爆発の中心にいることを意味します。Linuxが強い部分は全て、Sunが今まで強く、HPが弱かった部分です。我々にとって、これは完全な成長劇です。素晴らしいことです。

---ライバルのSunの立場に置かれたら、どうしますか。

 難しい質問です。Sunのビジネスモデルは基本的に崩壊しています。Sunは手を広げすぎ、焦点が定まっていません。合理的ではない、感情的な決断をしています。デスクトップについても、感情的なものです。Bill Gatesに挑戦を突きつけようというのです。どのようなビジネスの実体にも根ざしていません。Dellのように事業が拡大中で、家電のような新しい分野へ成長したいというのであれば、それは分かります。事業に失敗して下降線上にいる場合は、コアビジネスに集中し、コストを相応なレベルに押さえて、「ここを起点にどのように成長しようか」と言うのが常道です。

 思うに、SunはSparcの最期の絵を描かなければなりません。世間は、(Advanced Micro Devicesの)Opteronに関するSunの記者発表を受けて、Opteronが代替となると思い始めています。我々は(HPの半導体)PA-RISCからItaniumへの移行を経験しましたが、それには8年かかりました。簡単にスイッチを切り替えて、「昨日まではSparcだったけど、今日からはOpteronです」とは言えません。そんな風にはいかないのです。独立系ソフトウェアベンダー(ISV)のパートナーが必要です。仮想化をきちんと進める必要があります。もうひとつの課題は、Opteron上のSolarisとSparc上のSolarisは2つの全く異なるOSだということです。Solaris Sparcの関連製品を、全てOpteronに移行することはできません。

---(SunのCEOであるScott)McNealyは人々の神経を逆なでしていると思いますか。

 McNealyは性格的に問題があると思います。McNealyは、あのような役職の人間としては、少し傲慢でうぬぼれ過ぎています。ちょっと屈辱を味わうのが適当かもしれません。しかし、それは取締役会の仕事です。

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