東京大学教授の坂村健氏が所長を務めるYRPユビキタス・ネットワーキング研究所は24日、「自律的移動支援プロジェクト」を始めるにあたっての説明会を開催するとともに、ユビキタスコンピューティング導入後の社会のイメージを示すデモを行った。
自律的移動支援プロジェクトとは、国土交通省が提唱し、推進委員会を設置したもので、社会参画や就労などにあたって必要となる「移動経路」「交通手段」「目的地」などの情報について、いつでも、どこでも、だれでもがアクセスできる環境をつくっていくためのもの。坂村氏は同プロジェクト推進委員会の委員長に就任、YRPユビキタス・ネットワーク研究所がプロジェクトの全面的なバックアップを行う。
点字ブロックにICタグが埋め込まれている様子を披露する坂村健氏 |
坂村氏は以前よりユビキタスコンピューティング社会の実現に向けて活動を行い、あらゆるモノの情報管理が実現できるとしてユビキタスコミュニケータ(UC)という端末も開発したが、今回のプロジェクトで中心となるのは「あらゆる空間や場所に情報をつけること」だと説明する。「“ユビキタス場所情報システム”という情報基盤を実現し、個人で移動することが困難な障害者や高齢者などが自律的に移動できるようになる」と坂村氏。さらに、「これは障害者支援のための特別なものではなく、ユニバーサルデザインのコンセプトの下、汎用的なものとして確立することをめざしている」という。
具体例を示すためのデモでは、場所情報を提供するICタグが、道路の点字ブロックやビル、店舗、住所表示版、工事現場の三角コーンなどあらゆるものに埋めこまれており、UCを持った視覚障害者が街を歩きつつさまざまな情報を手に入れるといったことが行われた。点字ブロックから情報を得ることは以前から可能だったというが、従来のシステムでは点字ブロックからはみだしてしまうと情報を得ることができなかった。
また、工事現場などの障害物がある場合は、UCからの警告音声ガイドが流れ、工事期間、迂回路情報を得ることも可能だ。さらに、自動販売機でUCをかざすと音声メニューを聞くことができたり、住所表示版ではその住所を音声で伝えるとともに、視覚に障害がない人はUCで周辺地図情報を得て場所を確認したりすることも可能となっている。
「あらゆる利用方法が想定できる。街中の人がボランティアで情報発信端末を設置することもでき、情報量が増えるとさらに用途も広がる」と坂村氏はいう。「将来的にはUCの機能が携帯電話に搭載されることも十分考えられる。そうすれば、危険地帯に入ると警告の電話がかかってくるようになる」
情報が氾濫することに対しては、セキュリティ面での懸念も避けられない課題だが、坂村氏は「包丁は危険な道具だが、皆ルールを守って使いこなしている。ユビキタス社会においても重要なことは、規則や基準を決めること。技術面で解決できない部分はどうしても存在するため、このプロジェクト推進委員会がルール作りにおいて重要な役割を果たす。安全で安心なユビキタス国家を作るために、技術面での貢献を行うとともに、基盤作りにおける貢献も行っていく」と述べた。
会場には、数々のバリアフリー活動に関わっている日本点字図書館評議員の長谷川貞夫氏も登場した。自らも視覚障害者で、駅のホームに4回も転落したことがあるという長谷川氏は、「夢のようなプロジェクトがついに実現されようとしている。これはさまざまな人に役立つ重要な社会基盤になるだろう」と語った。
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