今年のTRONSHOWで主催者の坂村健氏が主張しているのは、「どことも争っていない」という点。そのなかでも坂村氏が特に強調したかったのは、坂村氏の活動拠点となっているユビキタスIDセンターと、慶應義塾大学教授の村井純氏が中心となって活動するオートIDセンターの関係だ。これまで激しく争っているかのように思われがちだった両センターの関係が良好なものであることを示すべく、「ユビキタスIDセンターとオートIDセンターは仲良し」というタイトルの講演会で坂村氏と村井氏共演が実現した。
この講演会の誘いが来た時には、村井氏でさえ「衝撃的なタイトルだ」と感じたという。しかし両者は、講演会のタイトルのごとく壇上でほほえましく意見を交わし、根本的な考え方が同じである点を強調した。
オートIDセンターは、1999年10月に米小売大手のWal-Martや米かみそりメーカーのGilletteなどが中心となって設立された。製品にRFIDをつけ、様々なアプリケーションで利用するために研究開発を行っていたが、今年10月に国際的な商品流通コード管理機関である国際EAN協会と、米国の流通コード管理団体であるUniformed Code Councilが共同で設立したEPCglobalにこれまで同センターが行ってきた事業を譲渡している。EPCglobalはコードの体系を決めるといった管理部分を担当するが、その後も研究開発などの担当は村井氏が所属するオートIDラボが行うかたちを取り、共同で活動を行っていく。
オートIDセンター立ち上げ当初の考えは、バーコードに替わる標準規格を提案しようということで、同センターの提唱する標準を一般に広めようとしていた。しかし村井氏もいまでは「世界各国コードの体系は違うもの。だから(オートIDセンターとユビキタスIDセンターのような)複数の組織が違ったかたちで体系を考えてもよい」と語る。さらにRFID利用の際に使われる周波数が各国で違うという点についても「アメリカで利用されている周波数が世界各国で通用するかというと決してそうではない。それを理解すべきだ」と、坂村氏が過去に述べてきた意見に同意を示した。
仲良く対談する坂村健氏(左)と村井純氏 | |
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坂村氏も、「今は政治的な決着をつける時期ではない」と語る。「技術も固まっていないのが現状なので、技術的な実験をもっと進めるべきだ。ユビキタスコンピュータが一般に普及するまでには10年はかかる。それまでに確かめるべきことは数多い」(坂村氏)
村井氏はさらに「開発したものが本当に受け入れられるものかどうか、慎重に考えるべきだろう。研究開発にはリスクがつきものだ。ゆえに実証実験を多くこなすことが重要だ」という。坂村氏もこれに同意し、「特に日本では軍事研究という名目がないため、大学の存在が重要となってくる。失敗しない研究なんてないものだが、その失敗のリスクを取れるのが大学だ。大学で研究を重ね、時期が来たところで産業界に受け渡せばよい」とつけ加える。
ユビキタスコンピュータの普及にあたってはセキュリティも課題だとされている。特に米国消費者団体のCASPIAN(Consumers Against Supermarket Privacy Invasion and Numbering)はこれまでオートIDセンターの動きに対して非常に敏感になっており、消費者を巻き込むRFIDの実証実験を中止させたこともあるほどだ。村井氏は、「プライバシーが甘いかどうかは個人や団体によって感じ方が違うもの。このように技術に対して反抗的な団体が足をひっぱるのはいかがなものかと思うが、われわれ新技術を推進する立場としては、技術の内容をしっかり説明する責任があるだろう」と述べた。
坂村氏もその意見に賛同し、「先端技術は確かに重要。だがその技術が何であるか、利用者に伝えることはさらに重要だ」と語る。現在ユビキタスIDセンターが、タグのついたすべての品物に「タグがついている」との旨を説明したマークをつけているのはそのためだ。「利用者はこのタグを見て、この商品は電子的に管理されているとわかるようになっている。タグがついていることでプライバシーの侵害だと感じれば、そのタグを取り外すこともできる」と坂村氏は説明する。だが同氏は、「このタグは将来的にモノとモノのコミュニケーションを可能にするものなので、たとえば洋服についたタグが洗濯機に洗い方を指示するといったことができるようになる。タグがついていた方が便利だと感じる時代が来るはずだ」と語る。
最後までにこやかなディスカッションを続けた両氏だが、「ここで対談を行い、握手をするだけでは仲がよいことの証明にならない」とし、「今後はユビキタスIDセンターとオートIDラボは共同で実証実験を行う」と発表した。坂村氏の研究グループが開発したT-EngineやユビキタスコミュニケータなどをオートIDラボにて実験するなど相互乗り入れを行うとともに、市場に普及する際、技術が多様化してユーザーが困らないよう責任を持って開発を進めると両氏。「技術で争いを解決したい」と両氏は固く握手を交わし、講演を締めくくった。
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