TRONプロジェクトのリーダーである東京大学教授坂村健氏が6月13日、TRON協会総会にて特別講演会を行い、ユビキタス社会に向けた意気込みを語った。坂村氏は、「われわれは海外で“ユビキタスコンピュータ”という言葉が使われる以前から、“どこでもコンピュータ”という概念を語っていた。明らかにユビキタスコンピュータは日本発のものだ。日本が主導権を握ってユビキタス社会を作り上げていこう」と主張する。
坂村氏は、ユビキタス社会で重要なことは「コンピュータが自動的に物を認識・判断する、つまりContext Awarenessを持つこと」だと語る。たとえば、物流において物品の行方を管理するためにRFIDタグをつけたり、違った種類の薬を同時服用することが可能かどうか教えてくれるよう、薬箱にコンピュータを埋め込むというのがいい例だ。「現実社会の状況に合わせてコンピュータが動作してくれる、これがユビキタスコンピュータのあるべき姿だ」と坂村氏はいう。
同時に坂村氏は、現在家電なども含めすべての機器をインターネットにつなごうという動きがあるが、インターネットの安全性を考えると適切とは思えないとし、また「必要のないものをわざわざネットワークに接続することもないだろう」と述べている。「ユビキタスコンピューティングは、社会的・文化的にその国特有のニーズに合致したものであるべきだ」と坂村氏は主張。たとえば米国では、物品の売上高の1.8%が盗難の損失を受けていることもあり、すべての物品にRFIDタグをつけるという動きが注目されているが、「これも日本ではどの程度必要なことかわからない」という。
坂村氏はまた、物品を自動認識する基盤技術の確立・普及のために設立したユビキタスIDセンターが、同様の研究を行っている米MIT(マサチューセッツ工科大学)に本部を置くAuto IDセンターと規格獲得競争をしていると報道されがちなことを否定し、Auto IDセンター代表のKevin Ashton氏と握手している写真を見せた。「あまりこのことで日の丸プロジェクトだとか戦っているだとか報道されると、TRONが過去に米国スーパー301条で迷惑を被った時のようなことになりかねない」と、Auto IDセンターと戦う意思はないことを示しつつも、「あちらは応用サイドの人々なので、チップを作ることはできないだろう。われわれに部があるのは確か」との自信も覗かせた。
RFIDについては電波の周波数が米国と日本で異なるなど、電波選択の基準などが問題となっているが、この問題について坂村氏は、複数の帯域網をカバーするチップを使い、国にあわせて電波を複数使うなどの工夫が必要だろうと語った。坂村氏は「万が一米国で使われている915MHzが世界標準になると、日本で携帯電話が使えなくなる。電波割り当ての見直しについては、国益を考えて戦略的に判断しなくてはいけない」と主張している。
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