「ユビキタスコンピューティングというコンセプトそのものは私が元祖だ」---東京大学教授の坂村健氏は12月10日、都内で開催された第1回アジアユビキタス会議において基調講演を行い、ユビキタスコンピューティングに対する自身の取り組みを紹介した。
坂村氏はユビキタスという言葉について、1984年にTRONプロジェクトを始めたころから「Computers Everywhere(どこでもコンピュータ)」という概念を掲げていたと語る。「私は英語があまりうまくないので、ユビキタスやパーペイシブのようにしゃれた言葉を思いつかなかった」(坂村氏)
坂村氏はその例として、1989年に建設したTRONインテリジェントハウスを紹介。333平方メートルの敷地内にセンサーなど1000個のコンピュータを設置し、どんなことができるかを実験したという。「例えば雨が降ってくると自動的に窓を閉め、エアコンをオンにして温度調節をするといったことができた」(坂村氏)。ユビキタスコンピューティングという言葉は1991年にMark Weiser氏がScientific American誌に掲載した"The Computer for the 21st Century"において使われ、一般に広まったとされているが、坂村氏は世界でこのような取り組みを行ったのは自分が最初だと強調した。
東京大学教授、坂村健氏 | |
---|---|
坂村氏といえば組み込みOSのTRONが有名だが、最近では組み込みOSにもLinuxの採用が進んでいる。しかし坂村氏は、TRONは世界で最も利用されているリアルタイム型組み込みOSだと語る。「誤解されている人もいるようだが、携帯電話にLinuxが採用されるからといって、TRONの代わりにLinuxが使われるという話ではない」(坂村氏)
TRONはリアルタイム性を重視したOSで、様々なタスクの優先順位をつけてスケジューリングを行える点に特徴があると坂村氏は説明する。例えば緊急に処理しなくてはならないタスクが発生した場合、TRONは1μs(マイクロ秒:100 万分の 1 秒)以下で切り替えを行うことができる。一方、WindowsやLinuxなどのOSでは切り替えに1ms(ミリ秒:1000分の1秒)かかるため、車の制御系や携帯電話の通信用には使えないと言うのだ。「携帯電話では2つのCPUが搭載され、音声通信用のCPUにはTRONが使われる。そしてEメールやブラウジングなど、リアルタイム性が必要ないものについてはLinuxやWindowsが使われる」(坂村氏)。つまりLinuxなどがTRONに取って代わるのではなく、1つの携帯電話機の中で共存するのだとした。
坂村氏は自身が会長を務めるT-Engineフォーラムについても紹介した。坂村氏によるとT-Engineフォーラムとは、組み込み型リアルタイムシステムの開発用プラットフォームであるT-Engineの研究開発や普及啓蒙活動を行う組織だ。現在の会員数は約300社という。坂村氏はMicrosoftやMontaVista SoftwareがT-Engine上で動くOSの開発を進めているほか、Sun MicrosystemsやOracleもT-Engine上で動くミドルウェアを開発しているという。明日から東京国際フォーラムで開催されるT-Engineフォーラム主催のTRONSHOWでは、「NTTドコモと共同で、T-Engineで作った第3世代携帯電話のデモンストレーションを行う」などと話し、実際に手にとって試して欲しいと宣伝することも忘れなかった。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス