今年のTRONSHOWは、昨年の倍以上の規模で開催されることとなった。それはTRON開発者である東京大学教授の坂村健氏が発起人となって立ち上げたT-Engineフォーラムが多くの企業から賛同を得ていることや、過去には宿敵とされてきたWindowsとTRONが手を組んだことなどがある。基調講演に立った坂村氏も、様々な企業と仲良くしている点を強調した。
坂村氏が2002年6月に立ち上げたT-Engineフォーラムは、当初22社でスタートした。このフォーラムを立ち上げた目的について坂村氏は、ミドルウェアを流通させるための共通プラットフォームを作りたかったからだと語る。「20年前にTRONプロジェクトに着手し、自由度の高い基盤技術として無料で配布してきたが、その結果いろんなTRONができあがった。そして改良されたTRONを他の基盤に移す際に手間がかかるようになってしまった」と坂村氏。ソフトウェアの開発がいかに困難かを熟知する坂村氏は、「これを何とか再利用する仕組みができないだろうか」と考えた。そこで思いついたのが共通の基盤を作り、どんなチップ上でも同じようにTRONが動くというシステムで、これがT-Engineの元となっている。この考えに多くの企業が賛同し、現在T-Engineフォーラムの会員企業は300社近くに拡大した。
「ユビキタス社会ではトウモロコシにもチップがつくようになる」と坂村健氏 | |
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その300社の中には、過去に苦い思いをさせられたマイクロソフトや、組み込み分野のOSとして注目を浴びつつあるLinux関連会社のモンタビスタソフトウェアなどが含まれている。過去にTRONが米国より締め出されたという経験について坂村氏は、「20年前、純真だった頃は、フリーでOSを提供すると皆が喜ぶと思っていた。ところが中には喜ばない人もいるということに気づかされた」という。だが同氏は、米国に受け入れられなかったから失敗であると報道されたり、マイクロソフトと戦っているという構図を描かれがちであることに対し、「企業同士であれば戦うことも重要かもしれないが、私は単なる大学教授だ。戦っているほうが面白いと思われてそのように報道されるのかもしれないが、このような間違った言い方ばかりされていると、さすがに温和な私でもエキサイトしてしまう」と述べた。
坂村氏はこう続ける。「世の中にはいろんなOSが存在しており、私もTRONでなければダメだとは決して思っていない。リアルタイムOSを他に作りたいというところがあれば大歓迎。競争は向上にもつながるものだし、ひとつですべてが決まるということはないのだから」。TRONは単にオープンで自由度が高いOSというだけなのだと説明する同氏は、同OSが他OSとも結びつきを強めていることを強調する。「誰ともケンカをしていない」と繰り返し主張する坂村氏は、WindowsやLinuxと共存できる環境を作ることで、本当に手を組んでいるのだという事実を世間に示したといえる。
「TRONで世界貢献したい」
坂村氏は、TRONプロジェクトを20年も続けている理由について、「1人の人間として、世界に貢献できることがあればぜひ貢献したいと考えているから」だという。RFIDについては、物流管理システムとして大企業が導入するなど話題となっているが、坂村氏自身は「もっと小規模で、小さな会社や個人がユビキタスコンピューティングでどのような利権が得られるのかということに注力したい」という。個人レベルで使える端末を開発し、最終的なエンドユーザーにどのようなメリットがあるかという点が重要だと坂村氏。「皆が手軽に使えるものであることが大切だ。その意味では、ユビキタスコンピューティングの土台作りをわれわれのような非営利団体が主導で行うことは利にかなっている」(坂村氏)
世界貢献の第一歩として坂村氏は、特にアジア地域に目を向けている。10月にシンガポールでの開発拠点を設立したことに加え、今後は他のアジア地域でも同様の活動を推進したいとしている。また、T-Engineフォーラムとサン・マイクロシステムが共同でT-Kernel上におけるJavaの実装を行ったことについても、坂村氏はアジアでのコンピュータ環境を重視して、サンが通常利用しているUnicodeではなく、アジアの言語をすべて区別できるというTRONCodeをサポートするJavaを用意するようサンに申し入れたうえで今回の実装が実現したという。「TRONは日本発のものなのだから、アジアでの貢献度は最優先としたい。アジアの言語はすべてユビキタスコンピュータの標準として取り入れていきたい」と坂村氏は語る。
これまで米国の貢献度が高いとされてきたコンピュータ業界だが、坂村氏は「ユビキタスコンピュータはPCでもインターネットでもない、新しいものだ」と主張、「21世紀はユビキタスの時代であり、この分野ではアメリカではなく、日本発のTRONが貢献していきたい」という。世界貢献という大きな夢を持った坂村氏の挑戦は今後も続く。
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