Vieux氏は、「IBMはソフトウェア業界にMicrosoftが登場した時も、PC業界にDellが登場した時も、たいした企業だと思っていなかった。それがあっという間にシェアを奪われた」と述べ、「巨大な企業が突然現れたベンチャー企業に負けることもある」と警告した。
千本氏も、「シェアを10%失うことがどれだけ大きなことか理解したほうがいい。一度シェアを失いはじめると、市場をコントロールできなくなる」と夏野氏に忠告した。
それでも夏野氏は、「現在のシェア52%のうち、ライトユーザーの10%を失ったとしても、ハイエンドユーザーをキープできれば利益率はむしろ上がる」と反論した。また夏野氏は、「政府がナンバーポータビリティ導入に踏み切った理由のひとつは、ドコモのシェアを下げ、市場の活性化を望んだためだが、期待したほどドコモのシェアは下がっていない」と述べた。
次に関口氏は、NTTドコモの強さが日本国内だけであることを指摘した。ドコモの海外での事業展開について夏野氏に聞いたところ、夏野氏は「米国のモバイル事業者は、海外からの脅威を全く感じておらず、外で何が起こっているのか気にしていないのが現状」と述べ、こうした市場にドコモが入るとすれば「ライセンス契約か投資しか道はない」とした。
一方千本氏は、「ドコモの役員は夏野氏以外NTTの出身者ばかり、日本人男性ばかりで単一民族の恐竜のようだ。柔軟な考えを持たない限り海外展開は難しいのではないか」と指摘する。
この点について夏野氏は、「このような古い体制は何もNTTばかりではなく、日本のメーカーをはじめとするレガシー企業すべてにあてはまることだ」と話す。日本の企業が柔軟性に欠けており、今後多様化を進めるべきという課題があることは夏野氏も同意しつつ、「それよりもエンドユーザーに本当の価値を提供することが第一だ」と顧客第一主義が重要であると主張した。
千本氏はさらに、Gartnerなどの調査から、日本の携帯電話端末メーカーの世界におけるシェアが極端に低いことも指摘した。「NokiaやMotorola、Samsungのシェアは、それぞれ世界でも2ケタ台なのに、NECや松下電器産業、京セラ、東芝、シャープ、三洋電機など、日本の携帯端末メーカーのシェアは全社合計しても世界で6.8%でしかない。これは日本の端末メーカーが、ドコモやKDDIなどの通信事業者に依存しすぎているためだ」と千本氏は苦言を呈する。
「Nokiaは、フィンランドという小さな国の出身だというのに、世界で36%ものシェアがある。Nokiaにとって国内市場は小さすぎるため、リスクを取って世界に出たのだ。日本のメーカーも、ドコモやKDDIなどから離れて世界に出てほしい」(千本氏)
この点は夏野氏も同意しており、「私が日本のメーカーのCEOならば、国内市場にばかりフォーカスするなと言うだろう」と話す。同氏によると、ドコモなどの通信事業者は、メーカーに比べると在庫面や流通経路などにおいてリスクを取っており、その分メーカーよりも利益が大きいのだと説明した。
こうして厳しい意見をぶつけ合った千本氏と夏野氏だが、両者共にお互いの考えを尊重する間柄でもある。ドコモ社内で「エイリアン扱い」されているという夏野氏は、時に「千本氏のようだ」とも言われるそうだが、それをほめ言葉として受け取っている。千本氏も、夏野氏のような人物こそドコモのような大企業を飛び出すべきだと薦めており「早くNTTドコモのような企業は辞めてしまいなさい」と夏野氏に語りかける。夏野氏は、「実は私にドコモを辞めろという人は2人いて…… 1人は千本氏で、もう1人は私の妻だ」と明かした。
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