「放送と融合するのはむしろモバイル」、イー・アクセス千本会長が講演

 「今後の情報通信のポイントはモバイル。モバイルブロードバンドのいちは やい実現こそが今後の日本を変える」、3月15・16日に京都府総合見本市会館 「パルスプラザ」で開催された「第5回ケータイ国際フォーラム」。そのトッ プセミナーで、イー・アクセスの千本倖生代表取締役会長兼CEOが「ケータイ 大競争時代の幕開け」と題して講演した。日本初の民間通信会社として第ニ電 電(現KDDI)を立ち上げたエネルギーを今、モバイルブロードバンドに注ぐ千 本氏の講演をふりかえる。

●10年ごとにやってくる携帯電話の「節目」、次はナンバーポータビリティ

 日本で最初の民間通信会社として第二電電の設立を目指して、電電公社のキ レ者として知られた千本倖生氏が京セラの稲盛社長と京都の鹿ケ谷で謀議を練 ったのは1983年の夏。翌1984年に第二電電を稲盛氏と創業、この第二電電(現 KDDI)により、それまで電電公社の独占下にあった日本の通信業界が大きな変 貌を遂げることになる。そしてKDDIがNTTに対抗し得る通信企業として成長し た後、千本氏はKDDIを離れ、大学教授を経て1999年にブロードバンド・ベンチ ャーとしてイーアクセスを設立した。ADSLが一巡した現在、千本氏が最大のター ゲットとするのが移動体通信だ。

 「携帯電話事業への新規参入については、今はKDDIに吸収されたツーカー、 およびデジタルフォンの2社が参入したのが今から10年前。日本で携帯電話サー ビスが開始したのはそのさらに10年前、つまり日本の携帯電話事業はほぼ10年 のサイクルで大きな変革が生じている。今年は2006年。携帯電話の番号が事業 者依存から脱却するナンバーポータビリティをはじめ、日本携帯電話産業は第 3の大きな変革が生じている」状況で、大きな変革の主役を担うべく再登場し たのが千本氏である。

 総務省は昨年11月9日、1.7GHz帯での携帯新規参入事業者をソフトバンクグ ループのBBモバイル、イー・アクセスの子会社であるイー・モバイルに決定し た。「新規参入に対する割り当て周波数幅が極めて狭いという不満はあるが、 1.7GHz帯の移動体通信で新規参入が認められたことは、日本の通信業界にとっ ては喜ばしい。新たな企業が既存の企業に戦いを挑んでこれを乗り越えていく ことが産業の歴史でもある。追いかけられる側がいかに理屈をつけようとも、 若いエネルギーのある企業が推進する変革を阻止することは難しい」と、新規 参入企業への割り当てを評価した。

●孫さんらしいボーダーフォン買収

 しかしその後、ソフトバンクは新規参入戦略を大きく変更、既存の通信企業 であるボーダーフォンを買収して参入する戦略に切り替えた。「当社と共に総 務省から1.7GHz帯の免許をもらった時点ではソフトバンクも新規参入を考えて いたようだが、結局のところ既存企業を買収することに戦略を変更した。しか し我々はあくまで新規参入で約束した通り、第3世代さらに第3.5世代の全く新 たなモバイルネットワークを一から作り上げる方針に変わりはない」と、同じ く移動体通信に新規参入する千本氏と孫氏との本質的な違いを示した。

 「今回のボーダーフォン買収は、いかにも孫さんらしい。新たなシステムを 目指すには新たなネットワークを作ることが重要なポイントだと私は考えてい るが、孫さんなら一から作るよりもそれに要する時間を買う方を選ぶだろう。 既存企業を買収することにより、1500万という顧客と既存のネットワークを手 に入れることができる。1兆7500億円という日本のM&Aとしては最大規模である ということも含めて、それはそれで一つの大きな決断」と評価した。

●放送と融合するのはむしろモバイル通信、FTTHはビジネスとして成功しない

 今後の大きな課題である通信と放送の融合については、通信の中でもモバイ ルがより重要であり、モバイル通信と放送の融合という側面が大きいというの が千本氏の主張だ。「世界の情報通信の最先端は光ファイバーではなくモバイ ル。米国のIT業界でも、携帯でシェアトップの Cingular という企業をどのよ うに発展させるかが最大の関心事となっている」として、世界のIT産業で最大 の関心はモバイルであると強調した。しかしなぜモバイルなのか。この問いに 対して千本氏は、「この分野が世界中で今後大きく発展するほとんど唯一最大 の分野。世界的視野で全産業のモバイル分野への注力は、日本の想像をはるか に上回るものがある」と明快に答えた。

 通信分野における最優先課題として、NTTは各家庭に至る光ファイバー化を 積極的に推進している。しかし各家庭に直接光ファイバーを引き込むFTTHにつ いて千本氏は、「ケイ・オプティコムやユーセンその他の例を見ても、光ファ イバーで儲かるビジネスモデルなどあり得ない。FTTHは膨大な投資が必要だが、 それで得られる収入はADSLに毛の生えた程度に過ぎない。しかも12か月無料のキ ャンペーンなど競争が激化すると、投資を回収することはさらに難しくなる」た め、「ビジネスとして成功しない」と断言した。

 都心部やビルに対してFTTHを引くのは有効で、その効果が明らかであること は千本氏も否定しない。しかし「何千万世帯という一般家庭に直接光ファイバー を引くというNTTの方針は明らかに間違っている。ある地域までの幹線を光フ ァイバー化するだけでなく、個別の家庭にまで光ファイバーを引くような無意 味なことをしているのは世界中でも日本だけ。どう考えてもビジネスモデルと して通用しないようなビジネスが継続できるはずがない」と、健全なビジネス モデルを描くことができ、かつ大きなビジネスとして展開できる分野がモバイ ルであると主張する。

 光ファイバーでたとえ100Mbpsの実効速度が出たとしても、30MbpsのADSLよ りも確実に便利になる用途というのは極めて限られる。FTTHにしたからといっ てユーザーの圧倒的多数にはさしたるメリットが見えないのが現状だ。しかし 「現在のモバイル環境がADSLと同等かそれ以上に速くなると、これは劇的な効 果がある」と見ている。「東京から京都までの新幹線における現在のモバイル ユースの限界を考えても、これは容易に理解できる。モバイルで数Mbps、でき れば10Mbpsが可能になれば、モバイル通信はこれまでとは全く違った世界にな る」との強い期待があるからだ。

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