インターネットイニシアティブ(IIJ)は8月30日、MVNO事業強化のため、8月29日にNTTドコモに対してデータ通信に係る加入者管理機能のHLR/HSS(Home Location Register/Home Subscriber Server)の連携に関する申し込みを実施し、承諾書を受理したことを発表した。これによってIIJは、自社で直接SIMカードを発行できるなど、サービスの自由度がより高い「フルMVNO」となり、2017年度下期よりフルMVNOとしてのサービスを提供するとしている。
HLR/HSSは、大まかにいえばSIMカードを管理するためのデータベースである。電話番号などSIMカードに記録されている情報を管理し、携帯電話ネットワークに接続利用する際の認証などに用いられる、移動体通信サービスを提供する上で非常に重要な設備だ。
従来、これらはMVNOに回線を貸すキャリア側が一元管理していたが、今回の申し入れが承諾されたことにより、IIJは今後、HLR/HSSを自社で直接運用できるようになる。それによって自社独自のSIMを発行できるようになり、従来よりもサービスの自由度が大幅に高まるフルMVNOになるとしている。
IIJは2008年よりMVNOとしてモバイル通信事業を展開しており、最近ではKDDIの回線を用いた個人向けサービスを10月に提供することを発表。6月末時点ではモバイルサービスの総回線数が140万1000回線を突破するなど、MVNOとして事業を順調に拡大している。
そのIIJのMVNO事業を統括している取締役CEOの島上純一氏は、MVNOが事業展開する上で、「期待されていることは、モバイル全体の成長拡大に寄与すること」だと話す。特に日本では、MVNO側がネットワーク設備を持つことで、一部のネットワーク制御ができるなど自由度の高い「レイヤー2接続」が実現し、大きなイノベーションが起きた。
レイヤー2接続によってモバイル通信サービスの価格破壊が起き、「格安SIM」「格安スマホ」などの言葉でMVNOが注目されたほか、SIMロックスマートフォンの市場が生まれるなど、移動体通信市場に大きな変化がもたらされたのは確かだ。しかしながら現在、多くのMVNOが市場に参入したことで激しい価格競争に陥り、サービスも大手キャリアに似通ったものが増えるなど、レイヤー2接続でのイノベーションに限界が見えてきた。
そこでMVNOが一層発展するためには、イノベーションを起こす必要があり、IIJでは2014年の夏頃より、NTTドコモに対してHLR/HSSの開放に向けた協議を進めてきた。その間、行政側がHLR/HSSの開放に向けた動きを積極化するなどの大きな動きはあったものの、結果的に開放に向けた交渉がまとまり、連携の申し入れが受理されたのが、発表会前日の8月29日になるという。
では、IIJはフルMVNOになることで、どのようなサービスを提供することを考えているのだろうか。島上氏によると、フルMVNOでSIMの中身を自由にコントロールできるようになることで、MVNOには3つの効果がもたらされると話す。
1つは「リプログラマブル」、つまりSIMの内容を状況に応じて書き換えられるようになることで、SIMを入れ替えることなくキャリア情報を変えることができるようになる。2つ目は従来のSIMの形にとらわれることなく、基盤の中に直接SIMを埋め込むなど、機器の条件にに応じたスタイルでSIMを提供できるようになる「エンペデット」。
そして3つ目は「マルチプロファイル」で、複数のキャリアの情報を書き込んでおくことが可能になり、場面に応じてキャリア情報を切り替えながら通信するサービスなども提供可能になると説明した。
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