本年5月14日、米証券取引委員会(SEC)は新たなコンピュータ言語「XBRL」による財務報告書の届け出を義務とする規則案を承認した。
規則案によれば、12月15日から時価総額が50億ドル以上の企業(ほぼフォーチュン500社が該当する)はXBRLによる年次報告書、四半期報告書の提出が求められる。
時価総額が50億ドルに満たない公開企業や外国企業もそれぞれ09年末、10年末にはXBRLを使用した財務報告の届け出が義務となる。つまり2011年にはすべての企業でXBRLは義務となる。
「XBRL」はeXtensible Business Reporting Language(拡張可能なビジネス報告言語)の略称だ。財務情報の記載項目をタクソノミーという形で構造化し、電子データ化する。
これにより、投資家は「インターネットに開示された貸借対照表を表示・印刷できるだけでなく、記載項目ごとに検索・集計・分析が可能となる」(XBRLジャパン)。XBRLの全面的採用で、現在の煩雑な業務は大幅に解消され、新たな企業情報革命が到来するというのだ。
新たな企業情報革命を導くXBRLが義務となるとなれば、企業はその準備を怠りなくしているはずだ。ところが現実はそんなに単純ではなさそうだ。
上場企業236社を対象に米有力誌「コンプライアンス・ウィーク」が7月はじめに発表した調査によると、社内にXBRLの専門家がいるかという質問に79%がいないと答え、いるという回答は21%にとどまった(19%が財務部門、2%がIT部門)。
調査によると16社(7%)がSECのXBRLプログラムに参加し、14社(6%)はXBRLのパイロット・テストを行ってきたと回答。また、30%がXBRLのテストを1度も行ったことがないが、この件は関心を持って動向を注意深くフォローしていると答えた。それでも、ほぼ8割近い企業にXBRLを担当する専門家が存在しないのだ。関係者に不安がよぎったのも無理はない。
SECはこの数年XBRLキャンペーンの先頭に立ち総力をあげて取り組んできた。そして、6月24日には、創立以来75年間変わらない10−k(年次報告書)をはじめとする企業各社のSEC届出のシステムに大きな改変を求める「21世紀情報開示イニシアティブ」も立ち上げた。もちろん、その中核はXBRLの採用にある。
8月1日、冒頭のXBRL届出案に関するパブリックコメントが締め切られた。コックスSEC委員長の任期は09年1月で満了することもあり、この規則は年内にも施行されると見られる。そんな時、ほぼ8割の上場企業がXBRLでのSEC書類届出に準備不足だというのだ。XBRL義務化の動きに企業の準備が十分でないことを明らかにした格好だ。
XBRLは今後、いま想定されている以上に企業情報ビジネスに大きな変化をもたらしていくに違いない。SECのXBRL義務化は規定路線だが、ほとんどの企業がその準備にさしたる緊急性を感じていないのはなぜだろう。
それは、有力金融情報エドガー・オンラインや証券関連印刷大手RRDドネリーがXBRLの届出ソリューションを用意し、各社のXBRL対策を支えているからだ」(市場関係者)という。外部のXBRLソリューションに頼って、当面の事態を乗り切るというのだ。
その結果、社内のXBRL専門家の設置や育成は後回しというわけだ。これでは「記載項目ごとに検索・集計・分析が可能となる」というXBRLがもつ魅力を生かしきれないと指摘するXBRK関係者も少なくない。果たして、日本企業のXBRL対策はどうなのだろう。
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