「お先にどうぞ」
ハイテク企業が自社技術を標準化団体やオープンソースライセンスに提出するよう求められる際に耳にするのは、要するにこういうことだ。世界全体にとって非常に役立つものなのだから、発明者は、自らの最高のアイデアを提供すべきだというのだ。
たとえば最近では、IBMやオープンソースの著名人らがSun MicrosystemsにJavaのソースコードを公開するよう要求している。Sunへの書簡のなかで、IBMの新技術担当バイスプレジデントRod Smithは、Javaソースコードが公開されれば「新たなアプリケーションやJavaコミュニティの発展のチャンスが大きく広がる」と記している。
「選択肢は、管理か遍在か、ということになる。『オープンソースは我々の味方』といくら主張したところで、やはりSunは管理を選んでいるように見える」とOpen Source Initiative会長のEric Raymondは述べている。
IBMもRaymondも、主張の内容は非常に合理的だ。Sunが管理の手を緩めれば、Javaはより広く浸透し始めるにちがいない。Linuxがたった5年で単なる好奇心の対象から世界現象へと変貌したのは、オープンソースライセンスによるものだ。
Sunは、互換性のないJavaバージョンが増殖するのを見たくはないとして、こうした圧力に抵抗している。
だが、Sunにはこの他にもっと重要な--言葉に表されていない--反対理由がある。「現在、Javaを搭載している携帯電話は大量に市場に出回っている。Java搭載の携帯電話1台につき、約25セントのロイヤリティがSunに入るのだ。問題はそれだけではない。Javaを軌道に乗せるまでにいったいどれだけの苦労とコストがかかったのか、分かっているのか? Tシャツや記念品のスポンジボールなどだけでも、何百万ドルもの費用がかかっているのだ」とSunは言うことだろう。
標準やオープン化は、業界や消費者にとってはもちろんのこと、開発者自身にとってもメリットがある。しかし、今の世の中は、標準化を是とする傾向に行きすぎてしまっているように見える。ある技術の人気が高まると、すぐにロイヤリティフリーのライセンス推進派が、委員会やワーキンググループを召喚し始める。発明者や特許権を主張する人々は、発展を妨害する邪魔者のような扱いを受けることになる。
標準にはもちろん価値がある。19世紀にヨーロッパで初めて鉄道線路が敷かれたとき、先進国のほとんどは線路幅の統一に賛成した。ロシアはこれに賛同せず、ドイツの侵攻を防ぐために、より幅の広い線路を採用した。そしてそのせいで、ロシア軍は第一次世界大戦で戦線に出遅れてしまった。
ハイテク業界も同様に、標準化が通例になりつつあり、互換性を確保する方法として、ネットワークプロトコルやパソコン筐体の内寸などで標準を採用している。
しかしながら、こうした標準の取り決めの多くは、潜在的利益が低く、競合技術に負けるリスクが高いタイミングでまとめられた便宜上の産物だ。Intelは、入出力機器の接続作業をスピードアップするため、同社のUniversal Serial Bus(USB)技術を標準として提出した。現在ではこの技術は一般に浸透し、どこでも採用されるものとなった。Apple ComputerはFireWire技術で1ポートあたり1ドルの利用料を徴収しようとしたが、利用料が値下げされるまで、これを採用する企業はほとんどなかった。
また、標準推進派は、別の大きな対立を隠していることも多い。大抵の標準化は、大企業に有利に、小企業には不利に働くのだ。ソフトウェアやチップ設計が一般利用向けに公開されれば、勝者となるのはそれを最も安く売れる企業だ。大規模な工場と開発チームを有する会社が勝利することになる。
これはBluetooth標準化の背景にあった戦略だ。Bluetoothがあれば、ノートパソコンから携帯電話経由でインターネットに無線で接続できるようになることから、携帯電話メーカーや通信会社らはこの技術をいたく気に入った。標準に準拠したBluetooth受信機をこうした企業が安く販売すれば、ワイヤレスデータのトラフィックを支配できるようになるわけだ。
もし現実がこの計画通りに進んでいたとすれば、Atheros CommunicationsなどのWi-Fi専門企業はおそらく成功できなかっただろう。Wi-Fi自体も同様に大企業に有利な標準なのだから、ワイヤレスブームで誕生したWi-Fi企業らも低迷していく可能性がある。
一方、比較的小規模の企業が唯一の財産として所有しているのが知的所有権だというケースは多い。標準化団体はその性質上、こうした企業に知的所有権を放棄するよう圧力をかけている。この点は最近、米連邦取引委員会(FTC)がメモリチップ設計会社Rambusに有利な決定を下した際に問題とされた。Rambusは、1990年代にJEDEC Solid State Technology Associationのメンバーだった時期に、高速メモリの開発に取り組んでいたことを不正に隠していたとして告訴された。
348ページにもわたる判決文では、1997年3月10日付けの三菱のメモが引用されている。「IntelによるRambus採用の動きに対抗するため、8社が2週間に一度会合を開いて、DDR(ダブルデータレート)仕様を急いで計画していた」
そういうことだ。批評家らが主張しているとおり、Rambusは陰険なやり方をしたのだろう。しかし大企業も同じことをしているわけだ。大企業は標準化組織の内部で、小企業をつまみ出すという確固たる目的のために協力していたのだ。
もちろん、こうした見方に同意できない人々も大勢いるだろう。ただ、怒りのメールを送りつける前に、ちょっとこの簡単なテストを試してほしい。いま仮に、あなたが曾祖父の遺産として特許を相続し、電話網に繋がれたすべての電話から1ドルずつ徴収できることになったとしよう。あなたなら(A)特に開発途上国での発展に拍車がかかり、成長の可能性が広がるとして、特許を放棄するだろうか? それとも(B)上機嫌にどんちゃん騒ぎをするだろうか?
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