いまだぬぐえないネットへの不信感
2006年1月17日のライブドアに対する強制捜査から2カ月が経過した。証券取引等監視委員会は3月13日に、約53億円の粉飾決算に伴う証券取引法違反の容疑で、前社長の堀江貴文容疑者ら5人と法人としてのライブドアを東京地方検察庁に告発した。そして、これを受けてライブドアとライブドアマーケティングの株式は4月14日に上場廃止になることが決まっている。
「この国の一般大衆には、金と権力はそれぞれ別の人間にあったほうがいいというバランス感覚がある」。これは、僕が個人的にお慕いする、ある大企業の経営者とライブドアの件をお話しした際にいただいた言葉である。事件の成り行きを眺めていると、この言葉を非常に意味深く感じてしまう。もはや、この件に関して経済的な側面だけで語ることはできなくなりつつある。
ライブドア自体は上場廃止となるものの、USENが業務提携することで事業としては今後の成り行きが非常に注目される。しかし、強制捜査以降に急落したネット企業の株価はいまだに低迷を続けている。もちろん、当初はネット企業以外にも多くの企業の株価が急落したが、特に新興市場のネット企業の下げ幅は大きく、まだ2006年年初の水準を超えていない企業が大半だ。
これは多くのネット企業が上場している東証マザーズの株価インデックスを見るとわかりやすい(下グラフ)。2006年の1月16日の2800ポイント近くまで上りつめた東証マザーズ指数は、事件直後に過去最大の下げを記録した後も下がり続け、2月に少し反転したものの、現時点では未だ1900ポイントにも満たない。また、東証一部に上場するヤフーやGMOインターネットといった大手ネット企業、JASDAQの雄である楽天、インデックスですら年初の株価を取り戻すことができないままだ。
もちろん、現在のネット企業の株価低迷の原因をすべてライブドアに求めるのは無理がある。しかし、ライブドアの事件が株価の大幅下落の引き金をひいたこと、そしてこれを契機に募ったネット企業全体に対する不信感がいまだに払拭されていないことはたしかだろう。
ネットバブル時の実体を復習
思い起こせば、今回のライブドア事件と同様のことは、2000年のインターネットバブル崩壊の時にも起こっている。しかし、その後ネット企業の業績は年々好調に推移し、2005年はまさに絶好調だった。だから、あれから6年が経過しようとする今年、もうあんな事はないのだろうと思っていただけに、僕には今回のことが残念でならない。
もちろん、株価は企業価値を図るための指標のひとつではあるが、常に正確に企業価値やその評価を反映しているとは考えないし、そもそも実体とかけはなれた株価をつけているネット企業も存在する。しかし、今回の市場の動揺をみるとネット企業のビジネスの実体に対する理解やその将来性に対する信用は、この6年であまり築かれてこなかったことを実感せざるをえない。
例えば、仮にライブドアと同じことを他の産業に属する他の企業が行っていたとしたらその影響はどうだっただろうか。短期的とはいえ、同じ業界に属する企業の株価がこれほど下落することはなかっただろうと感じるのは僕だけではないように思う。事実、カネボウの粉飾決算や三菱自動車のリコール隠しは、まったく無関係の同業他社の株価にほとんど影響を与えなかった上、各業界に属する企業への不信感へと転嫁されはしなかった。
そもそも、日本ではネットバブルの際のネット企業の実態すら完全に理解されてはいない。世間のイメージとは反対に、2000年当時のネット企業は急激な成長の最中だったと思われる。
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