ファッション産業の収益化を阻むミッシングリンクとは?

 コンテンツ産業論第三回の講師には、経済産業省製造産業局繊維課長の間宮淑夫さんをお招きしました。繊維課ではジャパンファッションウィークなどファッション産業の振興策を多数実施しています。以前から閉塞感が見え始めていた上、金融危機による消費低迷を受けて大変厳しい状況にあるこの市場を、政府はどのようにして活性化しようとしているのでしょうか。

 今回は、ユーザー目線のモノづくりがファッション産業振興に果たす効果について、間宮さんの講演内容を振り返りながら議論していきたいと思います。

繊維産業とファッション産業の関係

 まず、繊維産業とファッション産業の関係について明確にしておく必要があるかもしれません。これらの業界は通常、川上、川中、川下という3分法によって議論されます。

 川上とは素材を作る部分(紡績業、製糸業など)、川中とは繊維素材を原料として織ったり染めたりし中間材を作る部分(染色加工業、織物業など)、そして川下とは中間材から最終製品を作る部分(縫製業、ニット製品製造業、アパレルなど)です。要は、川上=糸、川中=布、川下=服と考えるとイメージしやすいかと思います。

 ウィキペディアによると繊維の元々の意味は「布を織る材料となる糸の素材」となっています。上記の3分法でいくと、川上(=糸)に密接な関係がある用語です。

 一方、いわゆるファッション産業は川下のイメージですね。経産省の課の名称としては「繊維」となっていますが、それは歴史的には紡績業などの川上が日本の基幹産業だった時代があるための名残だそうです。繊維課としては、川上のみならず、川中、川下部分まで総合的な政策を実施されています。

 「ユーザー目線のモノづくり」を考える意味では、どこにユーザー(顧客)が位置するか、その行動規範はどうなっているのか、が重要なポイントです。この意味では、川上企業の直接の顧客が川中企業ですし、川中企業にとってみれば川下企業が顧客となり、川下企業の顧客は流通、小売を経由して消費者にたどり着きます。

 各々の間に自然とユーザー対サプライヤー(供給者)の関係が構築されており、これら全体を一括して広義の繊維産業と捉えてみた場合、エンドユーザーは消費者となります。まずはこの産業について、間宮さんの講義を踏まえて再構成してみようと思います。

我が国の繊維産業に残された強みとは?

 日本の繊維産業は製品出荷額でみるとピーク時の3分の1の規模になっているそうです。90年代に13兆円弱になったのが、現在では4兆円満たない規模にまで落ち込みました。構成比では、川下が44%を占めるのですが、川上、川中も50%以上をいまだに有しているわけです。

 実は、川上、川中では「スーパー繊維」などといって工業用に用いられる繊維が伸びており、50%強のすべてがファッション用途なのではなかったりしますけれど、それでもなかなかの勢力です。

 なお、世界を眺めると中国が合成繊維を最も多く製造しています。合成繊維の代表格であるポリエステル繊維などでは、実に60%強が中国産です。こんな状況でも我が国には川上、川中もちゃんと残っており、このあたりが強みといえそうです。

 たとえば、J.P.ゴルティエのドレスで、MOKUBA(木馬)という日本のメーカーが作ったリボン素材でできているものがあったりします。MOKUBAリボンは世界中のセレブを魅了する、とまでいわれている世界に冠たるリボンブランドとなっているようです。

 ほかにも、ジーンズによくつかわれるデニム生地。もちろん中国でも大量生産されているのですけれど、こと高級デニム生地となると日本が最大の生産国になるようです(高級デニム生地最大手のカイハラ株式会社)。

 これ以外にも、中小企業庁が企画したイベント『テキスタイルスピリット2009』のホームページには多くの事例が掲載されています。

 これらの事例から解るように、川上、川中は昔に比べると圧倒的に規模縮小しているものの、高い技術力を背景に健闘し、我が国の繊維産業の強みになっているようです。

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